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それを聞いた魔女は、あろうことか、涙をひとすじ垂らした。あの人間とは思えない、ぎょろりとした目から。
それは、人間の涙と同じ、透明な涙だった。
髪を切るのは、旅立ちの日に決めていた。
ぱちん、ぱちん。うなじが見えるくらい短く髪を切る。
黒い服、ぎょろっとした目、かぎ鼻。
でもそこにいるのは、孫娘を案じる、ただの老女だ。
時が過ぎて、孫娘はもう知っていた。魔女の呪いの解き方を。
呪いを信じないこと。
自分を信じること。
自分の信じるものを、信じること。
新しい目で見た魔女は、抗えない存在などでは決してなかった。
家から出られなくしたのは、孫娘を外の世界から守るため。
外の世界のほうが恐ろしい呪いに満ちているということを、魔女はよく知っていたから。
そして何よりも、魔女は、またひとりぼっちになりたくなかったのだ。
魔物の正体は、恐れを抱く自分自身の心だ。
だから、旅立つ私はもう、恐れなくていい。
もういいんだ。
ルウは立ち上がった。
短くなった髪もまた、光り輝いている。
「おばあちゃん、行くね」
ルウが言うと、おばあちゃんはただ眉をひそめた。
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