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けれど小さいケントには、井戸の底のように黒い服を纏ったかぎ鼻の魔女は、敵に回すにはあまりにも大きな存在だった。魔女が使う魔法というものも、ケントにとってはまったく理解の及ばない代物だった。どうしてルウが家の外に出られないのか、どういう力が働いているのか、どうすればその力を打ち消すことができるのか。ケントは考えを巡らせていた。答えはまるで見つからなかったけれど。
ケントの家から学校までは、一本道だ。登下校の時などには、必ず魔女の家の前を通っていかねばならない。家の塀はケントよりも高く、窓の中を覗き込むことなど叶わなかった。二階の窓がかろうじて、道に光を落とす程度だった。
けれども時折、二階の窓は開け放たれていることがあった。そこからカーテンがなびいて、思わずケントは駆け寄って見上げた。
人影が見える。
「ルウ」
思わず呼びかける。しかし窓からにゅうっと現れたのは、あの憎たらしいかぎ鼻だった。魔女だ。小さなケントは逃げた。逃げるしかなかった。
そんな風にして、なすすべもなくただ時間だけが過ぎていった。ケントは地元の学校を出て、都会の寄宿学校へ通い始めた。
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