歌手になる

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 僕は歌が苦手だ。音痴だし、自分の声も嫌いだし。だから友人や会社の集まりでも、決して歌わなかった。しかしある年の忘年会、社長が自ら僕を指名して、僕に歌うように言った。さすがに断れないので、僕は仕方なく歌った。最近の歌は知らないので10年前のヒット曲を。すると意に反して好評だった。社内の雑談でもたびたび取り上げられたり、他部署の社員に声を掛けられたり、ついには「僕を歌手にする会」なども結成された。僕は最初の頃こそ訝しんていたが、徐々にその気になっていった。その会の提案で、有名なオーディション番組に僕を出そう、ということになった。僕は嫌がる素振りを見せながらも、内心はノリノリで参加した。しかし結果は散々。審査員には「音痴」だとか「悪声」だとか大酷評された。僕は落ち込んで会のみんなのところへ行った。会のみんなはニヤニヤしていた。そう、僕は騙されていたのだ。たちの悪いドッキリにかけられていたのだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加