0人が本棚に入れています
本棚に追加
今、実際はリヒター修道僧は悪夢のような酷い場所に居たのだが‥。
夢の中 優しい綺麗な声が夢の中で甘く響く。
「約束するわ リヒター修道僧 貴方を救ってあげるから」
それは綺麗な夢 夢の中で
あの時の海賊達のガレー船を破壊しようとした魔物少女の声と優しい笑顔
少女はリヒター修道僧に微笑みかけるのだった。
続く夢の中の情景は‥
以前、奴隷となった者たちを救い出そうと北アフリカに向かう途中の道だった。
チュニスの近隣 ロバに乗って隊を組んで歩んで歩いた道
僅かに救った者たちと共に旅した道
荒地、夜の時間 月明りの美しく壮麗なカルタゴの遺跡
もし昼間なら熱い太陽の空、青と白のコントラストがそれは見事な光景
其処 其処にあるのは栄華を極めたはずの
哀れな古代フェニキア人の末裔たちの植民都市 カルタゴ
荒地に広がるヴァル神殿跡をはじめとした遺跡の数々
『ヴァル神に愛されたもの』 その名前の意味するハンニバル・バルカ
アルプスをゾウ達と越えた伝説の名将ハンニバル将軍
彼が愛した故国の残骸。
「これは…此処は?」
「多分、貴方が見ている夢ね リヒター修道僧 今 貴方は船に居るから」
「此処は綺麗で切ない場所だわ」そう言いながら魔物の少女はリュートをつま弾く
「アレルヤ(ハレルヤ)」「オフイーリア」
それはあのガレー船で船を壊しながら謡っていたメロデイ
彼女が歌う中で海賊船の甲板が砕けてゆき、海賊達が次々と獲物になった。
「あの時、私が魔物と分かっていたのに助けようとした貴方
哀れな幼い貧者の為に身代わりとして 自らの身を捧げた優しい貴方への約束」
「だから‥それまで頑張ってね
『深い海、水底への道 運命の車輪の輪』から救ってあげるから
亡くなった恋人の元に行くには少し早いわ」
夜の静寂で星が瞬く、遺跡の夜 あの時の記憶が重なる。
だが、実際にリヒター修道僧がいる場所は‥
「起きろ!ガレー船の櫓を漕ぐ時間だ」甲板でリヒター修道僧が目を覚ます
奴隷として櫓を漕ぐ仕事をさせられている。
手足には鎖が繋がられて
恐らくは戦闘でガレー船が沈めば
多くの者たち同様に船との運命を共にする事になるだろう。
最初のコメントを投稿しよう!