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「なんだ? イライラしてんな?」
高級ホテルの一室。ベッドの上、玲司より年重の男が、煙草に火を点け紫煙を吐き出す。煙草を挟む指先は骨ばって無骨だが長く綺麗だ。
顎に伸びる無精髭に、普段はかき上げている前髪が額に垂れ野性味が増している。
その傍らで、横になったままの玲司はそれらを見つめつつ、大きなため息をついた。
久しぶりに激しく求めた。男の言う通り、鬱憤をそこで晴らしたに過ぎない。
白い肌に紅い痕が点々と散る。普段なら許さないが、今日はやけになっていた。もう、どうにでもなれと言わんばかりだ。
男は笑う。
「お前がそんな状態なのは珍しいな? まるで出会った頃を思い出す…」
煙草をくわえたまま、こちらに腕を伸ばして来た。無骨な指が伸びて胸元を辿る。まだ敏感な身体はそれだけれ、ひくと反応を示したが。
「まだするか…? 俺はどっちでもいい…」
「そう言う投げやりなのもそそるな」
男はまだ半分以上残る煙草を灰皿に押し付け、玲司の腰に腕を回してきた。ぎしりとベッドのスプリングが音を立てる。力強い腕は玲司が好むものだ。雫など及ばない。
だいたい、あんな奴、タイプでもなんでもない。尻の軽い女ばかり追っかけて。俺の一番、苦手とするタイプだ。
しかもノンケ。ここで比べること事体、間違ってる。
「豪。俺はいいが、そんなに調子に乗って、明日仕事になるのか?」
「大丈夫だ。こんなノリノリのお前を放って置くことはできないだろ?」
豪と呼ばれた男は玲司に覆いかぶさると、顔の横に手をつきキスを仕掛けて来る。
この男、長谷川豪は仕事上、付き合いのある商社の社員だ。役職は自分よりやや上になる。海外への出張も多く、こうしてゆっくり過ごす事は稀で。
付き合いは三年ほどになるか。大きな仕事がひと段落した後、接待の飲み会で何となくそんな流れになって、今に至る。
豪は男相手は初めてだったらしいが、玲司なら行けると関係を持ったのだと言う。
気持ちいいな。
行為も勿論だが、抱きしめられるのが好きなのだ。しかも、力強く逞しい腕なら尚更。
雫の腕なんて、比べるべくもない──って、また比べた。なんだって奴がでてくる?
「なんだ? なに考えてる?」
「なにも…」
豪は何か気に食わなかったのか、急に玲司の両手首を掴みスプリングの効いたベッドに押し付けた。
「…余計な事、考えられない様にしてやる」
そう言って不敵に笑んで見せた。玲司はそれに挑戦的な視線を送ると。
「望むところだ…」
こんな事の最中に、世話のやける後輩など、思い出したくもなかった。
「…分かった」
そう言って、覆いかぶさってくる豪の熱に、玲司は翻弄され、望み通り最中に雫を思い出す事はなかった。
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