2.早朝

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「へぇ。こんな所にこんな店、あったんですね?」  そこは大通りから一本、路地に入った場所。  若干入り組んでいて、知らないと来られない場所でもあった。昔ながらの喫茶店。  営業は朝からランチを挟んで、夕方五時まで。朝はモーニングもやっている。  モルタルの壁には年季が入り、古びた外観だったが、それがいい味になっている、そんな店だった。  店内は木目調で、山小屋の様でもある。古くはあるが、きちんと掃除が行き届いて清潔な店内だった。  観葉植物が適当に配置されていて、客同士視線が気にならないように工夫されているのもいい。今の会社に入社した際、先輩から教えてもらった店だ。  こうして自分も後輩に教える日が来るとは。  玲司は感慨深く思う。 「早めに来れば混んでいない。それに静かで気に入っているんだ。若い連中は入りたがらない外観だしな」 「たしかに。騒がしくなくていいっすね」  周囲は同じく会社員と思しき客が占めていた。近所の常連らしき年配の客もいる。  雫は見回した後、玲司の顔に目をむけ、ニッと笑った。 「なんだ?」 「って、主任って、こういう店に入る人だったんですね? シアトル系カフェにしか入らない人かと…」 「どう映っているかわからないが、俺はこういう、古い雰囲気の店の方が好きだ。コンクリの打ちっぱなしの店や、鉄骨が丸見えの店にはあまり惹かれないな」  かかるBGMもクラシックやジャズ。むしろ無くてもいいくらいだ。もちろん、雫の言うシアトル系が嫌いな訳ではない。入りもするが、長居はしないし、テイクアウトが主だった。 「へぇ…。じゃ、俺と一緒ですね!」 「一緒? お前こそ、そういった類の店にしか出入りしてないように見えるが?」 「俺も、かなりこっちの方が好きです。俺の好きな店トップファイブ、知ったら驚きますよ?」 「どんな店なんだ?」 「純喫茶! 昭和の香りがする店。今どきのセンスが光る店もいいとは思いますけど、落ち着くのはそう言った店です。馴染みの店もいくつかあって…。今度、行ってみますか?」 「一緒にか?」  店の場所だけ教えるだけかと思ったのだが。 「はい! なんか、主任とそういった趣味合いそうなんで、一緒に行って色々話したいなって…。ダメっすか?」  上目遣いで見てくるのが、やはり柴犬を連想させた。そんな目で見られると、無下に断るのも気が引けて。 「…ああ、いいが。また、お前が暇な時にでも誘ってくれ」 「はい! 分かりました!」  どうせ、この年代の連中は休日も予定がぎっちりつまっているに決まっている。  今は話しの流れで単に気を使ってそう口にしただけだろう。だいたい、彼女と会うのに忙しいはず。  職場の上司など、せっかくの休日に誘うはずもないと、玲司はそう思った。
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