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「すみません。募集のチラシを見て来たのですが……」
そこには一人の女の子が立っていた。
その子を見た瞬間、僕の体に衝撃が走った。そして、思った。
救世主が現れた……と。
スタッフも女の子をじっと見つめていた。
一斉にみんなに見られたせいか、女の子は顔を真っ赤にしていた。
それでも女の子は、簡単に自己紹介をしてくれた。
女の子は十三歳の中学生で、名前は伊代といった。
身長は小さくて華奢な体つきだ。
顔にはまだ子どもっぽいあどけなさが残っていた。
しかし、声は明るくはきはきとしていて、はじけるような笑顔も印象的だった。
「私、本格的な演技の経験はないけど、卑弥呼様役をやってみたいです!」
「卑弥呼様?」
「はい! 卑弥呼様です!」
その声には明るさとともに、意思の強さも感じた。
その場で簡単に歌も歌ってもらった。
素晴らしい……。
よく通る美しい声……とても魅力的な歌声だった。
この子はすごい……。
僕は即彼女の採用を決めた。
その理由は、もちろん彼女の魅力的な歌声というのもある。
しかし、それ以上に、彼女がいるとその場の雰囲気がぱあっと明るくなるのを感じたからだ。
彼女が来る前にはあれほど重々しい雰囲気だったのに、彼女が登場すると、その場の雰囲気が一気に明るくなり全員が笑顔になった。
そして、もうひとつ。
伊代という名前だ。「いよ」といえば、わずか十三歳で卑弥呼の後を継いで邪馬台国の女王となった壱与と同じ名前だ。
同じ名前で年も同じ十三歳。これは偶然とは思えない。
そう、伊代こそがきっと邪馬台国パークの救世主なんだ。
しかし、ようやく代役が決まったとはいえ、邪馬台国祭りまであと二日しかない。
さっそく邪馬台国ショーのメンバーに伊代を加えて、本番に向けての練習を行った。
本格的な演技の経験はないと言っていた伊代だったが、セリフもすぐに覚えたし、演技もうまかった。
何より、伊代の演技を見ていると、まるで自分も邪馬台国の女王・卑弥呼に仕えている人にでもなったかのような錯覚を起こした。
それほど素晴らしい演技だった。
まさに、若き日の女王・卑弥呼……伊代はそんな雰囲気を持っていた。
短い時間の練習しかできなかったが、伊代の加入によって、邪馬台国ショーはようやく形になってきた。
そして、いよいよ邪馬台国祭り本番を迎えた。
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