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日も沈み空が暗くなった頃、伊代が邪馬台国パークで一番高い建物である物見櫓に上がる。
それに合わせてお客さんやスタッフが伊代の近くに集まってくる。
僕は少し離れた位置で全員の様子を見ていた。
伊代は櫓の上で目をつむっていた。
その様子を伊代を見上げている全員がじっと見ていた。
祭りが始まってからずっと賑やかだった邪馬台国パークに一瞬の静寂が流れた。
伊代が目を開ける。
あれ?
ふと伊代の姿を見た瞬間、僕は伊代の雰囲気がそれまでとは変わっているのを感じた。
静寂が流れる中、伊代が歌い始める……。
しかし、その歌は事前に練習していた「邪馬台国の歌」とは歌詞もメロディーも全く違ったものだった。
一瞬、スタッフ全員の表情が「あれ?」となった。
さらに、伊代の声もこれまで練習の時や邪馬台国ショーのときの声とは違っていた。
よく通る美しい声は、それまでと同じだった。
しかし、今の声は、それに加えて力強さと崇高さも感じられた。
何というか、聞いているとまるでそこに吸い込まれてしまうような神秘的な響きを持つ歌声だった。
その場にいる全員がその歌声に圧倒され、またうっとりしながら伊代を見上げ、その歌を聞いていた。
僕も同じだった。
伊代の美しい神秘的な歌声を聞いていると、魂が揺さぶられる、そんな感じがした。
そのとき、すっかり日は沈んでいたのに、突然周囲が明るくなった。
邪馬台国パークでは古代の雰囲気を出すために、照明の代わりに松明を使っていたが、その松明の炎の大きさが何倍にも大きくなったのだ。
いや、僕の目には松明の数も増えたように見える……。
何が起こったんだ?
さらに、そのとき僕は、もうひとつ不思議な光景を見た。
なんと、伊代が歌い続けていると、その歌声に合わせるように、どこからやって来たのか、まるで古代人のような服を着た人たちが、邪馬台国パークの外から次から次へとやって来たのだ。
その数は何十人、いや何百人といるかもしれない。
誰だ、あの人たちは? どこから来たんだ?
さらに驚いたことに、どこから来たかわからない人たちが一斉に入ってきたのに、スタッフや観客はその人たちが来たのに気づいていないようだった。
いや、むしろその人たちがそこにいるのが当たり前かのように、何の違和感も覚えずに一緒にいるように見えた。
「みんなも一緒に歌おうよ!」
そのとき、伊代がその場にいる全員に向かって声をかける。
その声で、じっと伊代の歌声に聞き入っていた全員がハッとする。
そして、伊代が笑顔を見せて歌い始めると、みんなも笑顔になって、一緒に歌を歌い始めた。
みんな歌詞もメロディーもわからないはずなのに、全員が伊代の声に合わせてその歌を楽しそうに歌っていた……。
そこからは、みんなで歌え、踊れの大騒ぎ。
全員が一緒になって歌って、踊って、笑って……まさに一体となって、邪馬台国祭りを心から楽しんでいるようだった。
僕はその光景をじっと見つめていた。
「これが邪馬台国……まさにここに今、邪馬台国がある」
祭りはそのまま夜遅くまで続いた。
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