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邪馬台国祭りが終わり、会場の邪馬台国パークは、さっきまでの騒ぎが嘘だったかのようにひっそりと静まり返っていた。
父さんやスタッフは、歌って、踊って、さらにその後はお酒も飲んで騒いでいた。今は全員が管理事務所や会議室で寝ていた。その顔は全員とても満足そうだった。
途中からやって来て祭りに加わった古代人のような格好をしていた人たちは、父さんや観客の人たちと一緒に歌って踊ってお酒を飲んで楽しそうにはしゃいでいたが、祭りが終わると、いつの間にかいなくなっていた。
結局あの人たちは何だったんだろう。
しかし、本当にすごい盛り上がりだった。
みんなが本当に楽しそうだった。心からはしゃいでいた。
本当に、夢のような時間だった。
「楽しかったですね」
そのとき、いつの間にか僕の横に来ていた伊代が声をかけてくる。
伊代はパークを眺めながら、微笑んでいる。
「伊代……」
「楽しかった。夢のような時間でしたね」
「そうだね。これも君のおかげだよ」
「そんなことありませんよ。これはスタッフの皆さんや来てくれたお客さんのおかげです」
「でも、君がいなかったら、ここまでうまくいくこともなかった。君はまさに、邪馬台国パークの救世主だよ」
「救世主だなんて大袈裟ですよ」
伊代がニッコリと笑う。
その笑顔には、大合唱のときのあの力強さや崇高さはなく、かわいらしい普通の十三歳の女の子の笑顔だった。
「私、少しは卑弥呼様のようになれたかなあ」
「ああ。君はまさに邪馬台国の女王・卑弥呼だった。いや、君は邪馬台国パークの女王・伊代だ」
「えへへ、そう言ってもらえるとうれしいです。ありがとうございます」
そのとき、伊代が空を見てぼそっとつぶやく。
「今日の邪馬台国祭り、卑弥呼様にも見せたかったな。卑弥呼様も邪馬台国のみんなと一緒にくればよかったのに。みんな、すごく楽しそうに歌って踊っていたなあ」
「えっ……」
僕は慌てて伊代の顔を見た。
しかし、伊代は何事もなかったかのように、微笑みながら「おやすみなさい」といってその場を去っていった。
卑弥呼様も邪馬台国のみんなと来ればよかった? みんなはすごく楽しそうにしていた?
どういうことだ。
じゃあ、あの途中から加わった人たちは邪馬台国の人たちってこと?
そして伊代は、まさか、本当に、邪馬台国の女王・壱与ということなのか?
……まさか、ね。
次の日の朝、邪馬台国パークに伊代の姿はなかった。
事務室の僕の机には、伊代からの手紙が置いてあった。
邪馬台国祭り、すごく楽しかったです。
私、また邪馬台国祭りに参加したい。またみんなと楽しく過ごしたい。
だから……また、いつか邪馬台国で会いましょう。
伊代が始めてここにやって来たとき。
邪馬台国ショーに参加しているとき。
そして、フィナーレで歌を歌っているとき……。
僕は伊代が来てからのここ数日の奇跡のような出来事を思い出した。
伊代はいつも輝いていた。
伊代、ありがとう。
やっぱり君は僕たちの救世主だった。
伊代、邪馬台国でまた会おう。
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