邪馬台国の歌が聞こえる

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 邪馬台国祭りまであと一か月。  邪馬台国パークのスタッフは、通常営業の対応、そして、開催日が迫った邪馬台国祭りの準備で大忙しだった。  ……といっても、今日も来場者の数はそれほど多いわけではない。  来場者数は、一、二……情けないが、このまま簡単に数えられるくらいの人数しかいない。  しかもそれは今日に限らない。最近はずっとだ。  平日だろうが、休日だろうが、観光シーズンだろうが、来場者の数はこんなものである。  この来場者の少なさが、パークで働いている僕にとって大きな悩みとなっている。  邪馬台国パーク。  それは、古代史最大の謎といっていい「邪馬台国」をテーマにした日本で唯一ともいえるテーマパークだ。  邪馬台国パークは、大の古代史好きであり邪馬台国好きである僕の父親が構想を練り作った施設だ。  パークにある建物などの設備は、邪馬台国について記述されている中国の歴史書『魏志倭人伝』をもとに再現されている。  周囲は柵と濠に囲われていて、パーク内には高さのある物見櫓や宮室など多くの木造の建物が建てられている。  入場者は施設内を歩いてそれらの施設を眺めたり、中に入って見学したりすることができる。  また、施設を見学するだけでなく、来場者がより邪馬台国について知り楽しむことができるように、パークでは邪馬台国ショーと呼ばれる劇を上演したり、勾玉作り教室などの各種イベントを実施している。  邪馬台国パークは、今年でオープンしてから十年を迎える。  オープン当初は、邪馬台国というネームはやはり日本人を惹きつけるものがあるのか、それなりにお客さんが来ていた。  遠足や修学旅行など学校関係の利用も多かった。  しかし、ほかのテーマパークに比べると地味な施設なのは否めず、邪馬台国というネームバリューだけでは人を呼び込むことは苦しくなってきて、ここ数年、来場者数は減少傾向だ。  元々父さんの熱意だけで始めた施設なので、儲けようなんてことは考えていないが、このまま入場者数の減少、そしてそれに伴う赤字が続くと、パークの存続が危うくなってしまう。  何とか来場者を増やさないと……と思って企画したのが、十周年記念イベント「邪馬台国祭り」である。
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