ドム嫌いの人間サブは妖ドムに妄愛される

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「俺さ……お前の事勘違いしてたみたいだわ。いや、サブを勘違いって言った方がいいのかも。単に他人に守って貰いたいだけの命令待ちの構ってちゃんだと思ってたんだ。でも最近の月見里見てて、違うんだなって思えた。ちゃんと自分の意思で拒んだり出来るんだな。驚いたわ。今まで見てみぬふりしててごめん。後、部署は違うけど同期なんだし敬語要らないから」  はにかみながら言われた言葉が身に刺さった気がした。自分がドムに抱いている偏見と同じだったからだ。  白月と会って、伊藤たちみたいなドムだけじゃないんだと思えた。 「分かった。あの、気にしないで。僕も似たような事をドムに対して思ってたから……。でも、あるドムの人に出会って考えが変わったんだ。強くなろうと思えた。手当してくれて本当にありがとう。嬉しかったよ」 「おう」  デスクに戻って書類作成の続きに戻ると、近くにいた社員たちが心配して集まってきて、説明が大変だと久しぶりに感じた。  嫌な気持ちじゃなくて、胸の奥が温かくなるような大変さだった。  その日その日の出来事を話す為に、白月のいる神社に向けて走っていた。  ——早く、白月に会いたい。  到着すると誰にも見られない場所に行き歌を口ずさむ。白月と繋げてくれるわらべ歌を小さな声で紡ぐ。 「おかえり空良。今日も楽しそうだけど……それどうしたの? 大丈夫?」  暗闇の中から、地を滑るように姿を現した白月に「ただいま」と言いながら目を細めた。 「平気だよ。心配しないで、白月」 「痛くない? 治す?」 「ううん。すぐ治っちゃったら変に思われちゃう。このままでいいよ。というか、そういうのも出来るんだね」  額と頭に口付けを落とされる。 「屋敷に行って話をしようか」 「うん。今日も色々あったんだよ」 「聞くのが楽しみだ」  白月に手を引かれて異次元空間への扉を潜る。屋敷内にあるいつもの食間でテーブルを挟んで腰を下ろした。 「今日は何があったんだい?」  穏やかな口調で言葉を発した白月に向けて、空良は嬉しそうに笑んで見せる。 「今日ね、無理やりコマンドを発令されたんだけど、耐えれたんだ。特訓の成果が出ていたよ。その後ちょっとそのドムと喧嘩っぽくなっちゃったんだけど、額を手当てしてくれた人に見直したって褒められて嬉しかった。それに会社で声を掛けてくれる人が増えたんだよ。昼食に誘ってくれたり。前まではこんな事なかったのに、全部白月のおかげだ!」  白月と会って見えていた世界が変わった。  まさかドムに対抗しようと自分が思うようになるとは思わなかった。サブだから虐げられるのだと悲観に明け暮れ、何もせずに殻に閉じこもるだけだった。  白月と会ってからは、毎日が楽しくて仕方がない。本来なら当たり前のように享受出来る幸せだったのかも知れないが、白月がもたらせてくれた運気だと思っている。 「空良が頑張った証だよ。今日も特訓するかい?」 「うん」  隣に移動してきた白月に満面な笑みをこぼす。伸びて来た右手に顎をすくわれて、上向かせられた。 「白月?」  名を呼んだ時には唇同士が重なっていて、驚き過ぎて目を見開く。 「あ、つい。ごめんね、我慢出来なかった」  戸惑ったようにはにかまれた。  ——キスって、つい……するものなの?  結界玉を貰う時は確かに口移しだけど、それ以外で唇に口付けられたのは初めてだった。  まだ呆けたままでいると、横向きのまま抱きしめられていて、何故か妙に心臓が脈打って煩くなる。 「私に空良補給させて」 「何それ」 「ふふふ、空良を抱きしめたり、口付けたり、甘やかしたりしたいって事だよ」  ——何だ、いつもの戯れか。  ガッカリしたような安心したような何とも言えない気持ちになる。それでもまだその行為たちにも慣れないのだけれど……。 「僕の心臓持つかな」  諦めにも似たため息が溢れた。  ——白月に触れられると心音が上がる。  座ったまま横抱きの体勢に変えられ、こめかみや頬に唇を落とされた。目が合う度に微笑まれると身体中の血が沸騰しそうだった。  ——ムリだ。やっぱり慣れそうにない。  美人は三日で飽きるなんて嘘だと思った。  白月の綺麗な顔に微笑まれると何かに心臓を撃ち抜かれたような衝撃がくる。飽きるどころか慣れる気さえしないし、毎日毎日一発で陥落させられている気がした。 「これにも慣れて欲しいな」 「ごめんなさい。ムリです」  即答していた。 「あーー! また敬語〜。私……今日は特訓しない」 「……え」 「嫌。空良が私のする事全部に慣れて普通に喋ってくれるまでずっとこうして抱えたままにしておく」  白月が本気で拗ねた。  たまにこうして子どもっぽい面がある白月は可愛いと告げればまた拗ねそうだから、心の中だけに留めておいた。 「あの、白月?」 「嫌」  ずっと横抱きにされたまま離してくれる素振りさえ見えない。十分……三十分と経過していった。  全身の力を抜いて白月に体を預けたまま、その胸元に顔を埋めた。 「白月……ごめん。もうそろそろ許して……お願い」  根負けして口を開いた。 「ふふ、駄目。恥ずかしがってる空良可愛い」 「もうっ! やっぱり態とだった! ……お願い。勘弁して」 「ねえ、空良。今日は泊まっていけないの?」 「泊まったら離してくれる?」 「ううん。ずっとこのままだよ」 「それなら家に帰る」 「言い直すね。今日は帰してあげない」  ——白月……人間だとそのセリフは確実に誤解を与えるよ。  妖の感覚はよく分からない。  泊まりの件は早々に諦めてこの腕の中から逃れる事を模索してみたけれど、無理そうである。  ——明日にはきっと僕の心臓は止まっている。  それからはずっと上の空で、ここぞとばかりに擦り寄ってくる白月の腕の中に囲われながら、本当に朝まで過ごす羽目になってしまった。
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