ドム嫌いの人間サブは妖ドムに妄愛される

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 *  一度外泊をしてしまえば、二度目からは抵抗感も薄れてしまうものらしい。  金曜日から週末にかけて、後は祝日などに、空良は白月の屋敷に籠りっきりになっていた。  半同棲のような生活がとても居心地が良くてこれでは帰りたくなくなってしまう。 「空良、このまま此処で暮らしても良いよ? 私は大歓迎」  額に秒間隔で振ってくる口付けが擽ったくて片目を瞑った。 「でもそれだと食事の用意とか食材の調達とか申し訳ないよ。今でもお金を払いたいくらいなのに」 「心配しなくても神楽が何とかしてくれるからいいのに」  それは本当にいいんだろうか、と疑問に思いながら「神楽って?」とだけ聞き返した。 「友人だよ。今は人の子の中で共存している」  白月の言葉に目を剥く。 「え、共存?」  そんな事が可能なのか。白月の顔を注視する。 「そう。元々は私みたいな妖で、人の子に神社に祀られて神格化した緋色の獅子だよ。神楽は存在が消えかけてた時に、死のうとしていた人の子の中に入った。色々理由があってそのまま共存しているよ」 「共存……じゃあ僕らが気がついていないだけで妖と話したりしてるかもしれないんだ。何だかちょっとドキドキするね」  死のうとしていたという言葉は気になったけれど、聞かない方がいいかもしれないと胸の中に止めた。  こちらからの問いかけに、白月が笑い声をこぼした。  ——ちょっとミーハーぽかったかな?  逡巡していると白月が口を開く。 「今正に人の形に姿を変えた妖と喋ってるでしょう」 「あ、そうか。なんていうか妖とは理解しているんだけど、元の姿は見てないからなのか白月には人間と同じ様に接してしまうよ。それに初めて会った時から、白月の事は知ってる気がしてたからっていうのが大きいかな」 「空良は二度も私に愛されてるからね」 「ちょっと白月……っ、素面でそういうこと言うのやめて」  少し意地悪な笑みを浮かべた白月を睨むと喜ばれた。  話題を変えようと思考を巡らし、一つ聞きそびれていた事を思い出す。 「そうだ。前々から聞こうと思ってたんだけど、聞きそびれちゃって。どうして白月は妖なのに僕や伊藤に見えたの? 今みたいな人型の姿をしていると他の人にも同じ様に見えるの?」 「空良には常時見えるようにしているだけだよ。他の人の子には見えないようにしている。あの男の時は姿を見せた方が、空良を確実に守れると思ったし、人型の方が妖術も手加減して扱えるから便利だっただけ。あの男は現実主義者で利己主義者、自尊心が高すぎるきらいがあったからこんなオカルト話は誰にも吹聴しなさそうだと踏んだ。だからこそやり過ぎちゃったんだけど」  ふふ、と笑った白月を呆気に取られた表情で見た。 「でもそれならこうして僕と会ってるのを見られるとマズイんじゃないの?」 「別に私は全て捨ててしまっても構わないよ。空良が側にいるなら私は何も要らないんだ」  ——ああ、ダメだ。またこのパターンに戻ってしまった。  赤面まっしぐらな言葉が来るのは必死。止めなければと思い、空良は慌てて言葉を口にした。 「ちょっと白月! そういうの言わないでってば。白月の言葉は甘すぎて……「私は空良が大好きなだけだよ」……っ!」  止められなかった。いや、寧ろ態と言葉を被せられた。  それ以上は何も言えずに赤くなっているであろう顔を両手で隠す。  耳まで熱い。白月も同じ目にあえば分かってくれるかと思ったけれど、同じ事を言うと喜ぶだけ喜んで十倍返しされそうだったのでやめておいた。  ——いつになったらこの熱さは無くなるかな。  少し考えて自らの額に手を当てる。  ——あれ? 本当に熱い?  気恥ずかしさから来る熱さではなく本当に発熱している気がした。 「空良何か顔赤くない?」 「うん、何か急に熱くて……」  額に乗せられた白月の手はヒンヤリとしていて気持ち良かった。 「特訓の影響で体調に異常をきたしているのかもしれない。空良は会社にいるドム以外とはプレイした事はないの?」 「ない……僕が出会うのはいつも伊藤みたいなドムばかりだから」 「え、もしかしてたったの一度もない?」 「ないよ」  驚いたように目を瞠った白月にジッと見つめられる。 「空良、多分それ……サブとしての欲求を満たせていないから体調に現れているんだと思う。このままだともっと気分が悪くなるだけだよ。一度私とまともなプレイをしてみない? 怖い?」 「……」  怖くないと言えば嘘になる。何せ初めてのプレイだ。散々嫌な目に遭ってるのもあって、簡単に頷けはしなかった。 「どう……しよう」 「大丈夫。私は空良の嫌がる事だけは絶対にしないと誓うよ」  穏やかながらも真摯な瞳で正面から射抜かれる。 「うん。白月の事は信用しているし信頼もしているよ」  体に覚えこまされた恐怖というのはすぐに消えるものじゃない。どうするのが最適解なのかは分かってはいても簡単に頷けなくて、視線を彷徨わせた。 「少しでも違和感があったら『やめて』て言って良いよ。とりあえず今日はそれをセーフワードにしよう。空良は一度ちゃんとしたプレイをした方が良い」  嫌な顔一つせずに微笑まれると少しだけ肩の力が抜けていく。小さく頷いて、目を閉じると深呼吸をした。 「お願い……してもいいかな?」 「私なら大歓迎だよ。おいで」  手を引かれて連れて行かれたのは、泊まる時に使用している客間の一つだった。普段とは違って今は緊張感と不安感に包まれている。 「空良、そんなに構えなくても大丈夫。いつもみたいにしていて」  正面から抱きしめられて背中を摩られている内に不安感は落ち着いてきた。 「特訓の時みたいに軽いものから始めよう」 「分かった」  白月としっかりと視線を絡ませる。 「空良、——座ろうか?(Kneel)」  足から力が抜けて畳の上にペタンとお尻をついた。 「ふふ、空良の座り方って可愛いよね。——良く出来たね(good)」  同じ様に腰を落とした白月に、頭を撫でられる。ホッと息をつきたくなるくらいに胸の奥から温かくなってきた。 「——私を見て?(look)」  視線を上げると綺麗な白群色の瞳が細められて、動けなくなる。何処までも真っ白な白月にとても映える色だと思う。心なしか心音の速度が上がった気がして、心臓に手を当てた。 「何か言いたい事ある? ——私に教えて?(say)」 「白月が……」  上手く呂律が回ってくれなくて一度言葉を切る。百メートルを全力疾走した後みたいに息が上がっていた。 「私?」 「うん……綺麗。白月……綺麗。瞳の色も……好き」  意外な答えだったのか白月が目を見開いたまま固まっている。かと思えば微かに頬を染めて袖口で顔を隠してしまった。 「あの……ごめんなさい。もう言わない……から」  拒絶されたのだと思って悲しくなってくる。 「違うよ、空良。照れただけだから気にしないで。——ちゃんと言えて偉いね空良(good)」 「本当に? 怒ってない?」 「うん。私が空良に怒るなんて事はないから安心していいよ」 「良かった。白月……あの……」 「言っていいんだよ。——教えて?(say)」 「もっと……欲しい。白月からのコマンド……もっと欲しい。白月の……気持ちいい」  頭の中がフワフワしていて、訳が分からなくなってきていた。酩酊状態に足元さえ掬われそうになりながら、空良は白月に向けて微笑んでみせる。 「私の理性がぶっ飛びそうなくらい可愛いんだけどどうしよう。主語抜かしは危険だよ空良」  目頭に手を当てて白月は俯いた。 「しらつき?」  ダメな答えだったのかと、空良の表情が曇っていく。 「ううん、こっちの話だよ。——おねだりできて偉いね(good)」  空良の表情が蕩けて、熱と欲を孕んだ。座った状態で体が揺らぎ、畳の上に倒れ込む。少しのコマンドで満足したのか、空良はそのまま寝入ってしまった。 「理性が飛ぶ前で良かったかも。久しぶりの空良は格別だった……」  空良の体を横抱きにして、布団の上に寝かせた。その隣にもう一組布団を敷く。普段であれば一緒の布団で寝るが、今日だけは平然と寝られる気がしなかった。
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