ドム嫌いの人間サブは妖ドムに妄愛される

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 *  それから数日経った頃だった。  神社の鳥居を潜り歩いていると、正面から大学生らしき男が歩いてきて足を止めたのが分かって足を止めた。しかも食い入るように見られている。  ——誰? 知り合いじゃないよね?  やたら整った綺麗な顔をした細身の男に瞬きすらせずに見られていた。  ——この人ドムだ。面倒な事にならない内に早く行こう。  駆け足気味に足を動かす。通り抜けようとした瞬間、腕を掴まれて引き止められた。 「あの、何か? 離して貰えませんか?」 「アンタ……もしかして山で起こった車の事故で両親を亡くしてないか?」 「不躾にも程があると思いませんか?」  初対面で突然その質問はないだろう。思いっきり眉間に皺を寄せてしまった。 「あ、ごめん。俺は神楽って名前だ。知ってる人とアンタが瓜二つっていうか、余りにも魂の形が似ていたから。悪い」  揶揄う様子は見受けられなかったので、空良も強張らせていた体から力を抜く。 「そう……だったんですか」  男の言葉に相槌を打ち、気がついた。  ——え、神楽? 「神楽さんって、もしかして白月の友人ですか?」  驚いたように見つめられ「もしかして空良ってアンタの事か」と問われて空良は頷いた。 「マジか。成程な。こっちも繋がってんのかよ。だからバラけた奴らの情報も持ってたわけだ。何の因果なんだろな……」  話が見えない。神楽にもそれが伝わったのか、小さく息を吐いてショートカットの黒い髪の毛をかきまわしていた。  繊細そうな見た目に似合わず、仕草や口調からは大雑把な印象を受けた……と言えば失礼にあたるだろうか。神楽をジッと見つめる。 「ここじゃなんだし、とりあえず白月のとこに行こうか。俺の手を掴んでくれ。あいつの屋敷まで飛ぶ」  周りに誰もいないのを確認してから、返事をした。 「はい」  差し出された手に手を重ねると、景色が歪んで急速に体を移動させられる。気がついたら見慣れた中庭にいて、額に手を当てた。  ——ダメ。頭がグラグラする……っ。  急激な異次元空間移動についてこれなかった。完全に目が回っていて、庭先で倒れる。 「おい!」 「わ、空良!」  目の前でカメラのシャッターを連続できられながら、高速回転機に乗せられたような気分だった。 「う……ん」  気がつくと布団に寝かされていた。 「空良、気がついた? ごめんね、このバカ獅子が」  普段白月が異次元空間の移動の際にどれだけこちらに気を使ってくれていたのか分かった。やっぱり白月は優しさで出来ている。 「ごめんごめん。いつもの癖で……。まさか人の子がこんなに酔いやすいなんて思わなくてよ」 「いえ……平気です」  もう気分も落ち着いていて体を起こすと、心配そうにしている白月と目があう。 「大丈夫だよ、白月。そんな顔しないで」  微笑んで額を重ねた。 「おいそこイチャつくな」  人差し指をさされて指摘され、神楽に向き直る。 「通常運転なので気にしないでください。それより、さっき言ってた因果って何の事ですか?」 「ああ、それな。この体の主が死のうとしてたってのは白月に聞いたろ?」 「はい、聞きました」  少し目を伏せながら答えた。 「コイツ、数年前人の子のドムたちにサブドロップに入れられたまま輪姦されて山の中に放置された事がある。その時死のうとしてた。だから俺はその時コイツの体を借りる代わりに復讐するという契約をした」  親指で自身の胸元をトントンと叩いた神楽が、空良を見つめる。  想像もしていないくらいに重い内容だったので、声も出てこなくて喉を嚥下させた。 「……っ!」 「すぐにソイツらの後を追ったんだけどソイツらは車の事故を起こしていた。××県にある⚪︎⚪︎山と言う所だ。何人かはもう逃げた後でな。ソイツらに激突された相手の車は転落していった。引き上げようとしたんだけど俺が来た時にはもう手遅れでさ、その時車に乗っていた女の顔がアンタと瓜二つだったんだ。だから聞いたんだよ。アンタが女で歳取ったらあんな感じだろなと思った。さっきは不躾だった。悪かったな」 「いえ……」  ぼんやりとまた視線を下に落とした。昔は母と瓜二つのこの顔は正直あまり好きではなかった。  でも今となっては良かったと思える。この顔のおかげで真相を知る事が出来た。  明らかに衝突の形跡があるにも拘らず、自損事故扱いとされ、不明瞭な事が多かったのだ。もう何も出来ないけれど。 「神楽さんの思っている通りだと思います。僕の両親は、旅先のその山で事故に巻き込まれて三年半前に亡くなっています。自損事故だと僕たち家族は知らされました。僕は母と瓜二つだと昔から良く言われてましたので……。そっか……そうだったんですね。両親もドムに……。ドムなんて嫌いです。でも両親の事故の真相を聞けて良かった。ありがとうございます」 「空良」  白月に後ろから抱きしめられる。  両親の件に関してはもう心の中で折り合いがついているからか、取り乱すまで感情が揺り動かなかった。  確かに今でも悔しくて腹立たしいとは思う。それでも事故として自分を納得させて上手く飲み込んでいたのが大きい。 「大丈夫だよ白月。両親の事故に関しては、もう乗り越えているんだ」  ——僕は薄情なのかな。  自分で自分自身に戸惑ってしまった。納得させただけで終わらせてしまった事を疑問に感じて視線を伏せる。  当時は、食い下がって原因究明までする心のゆとりはなかった。  その事故を嘆いて涙にくれる祖父母を慰めるだけでいっぱいいっぱいで、そんな二人の心労を和らげようとあえて明るく努めていた。泣くのは深夜一人になったベッドの上だけで良かった。 「あの、神楽さん」 「どうした?」 「その人は……大丈夫なんですか?」  白月からは共存していると聞かされている。  その後どうなるのか未知数で、自分には良し悪しが分からない。二人の意思があって、納得しあって決めたのだと思う。神楽からも白月と同じ優しさしか伝わってこない。  部外者が口を挟む余地がないのは分かっているが、同じようにドムに虐げられていたのもあって他人事だとは思えずにとても気になった。 「俺が居た神社はだいぶ昔に廃れちまってな。なのにいつも供え物をしに来るガキが居たんだよ。それがコイツ……尊留(たける)だった。毎日見守ってたんだ。でもあの日、俺の力が弱まっていたのもあって、たまたま俺は別の神社に力を分けて貰いに行ってて居なかった。俺が居たら拉致られる事もなかったのに。だから今度こそ助けたい。コイツの初めての頼みくらいちゃんと叶えたい。尊留は大丈夫だ。コイツも何だかんだ言って強いヤツだから。つーか、お前は自分の心配してな。龍は優しいだろうけど、その龍はしつこいぞ?」  神楽は笑いながら言うと、異次元空間の中へと消えていく。白月に体重を預けたまま、静かにそれを見ていた。
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