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「本当に可愛いね、空良」
「揶揄わないで」
「空良」
「何?」
「気持ちだけじゃなくて、ダイナミクスのパートナーとしても私だけのサブでいてくれる?」
もしかしてあの日、聞いていたんだろうか。
扉一枚挟んだ向こう側に白月が居たのかと思うと、良い歳して泣きじゃくった自分の醜態を思い出し、急に恥ずかしくなってきた。
「僕は……白月以外のサブでいるのが嫌だよ。白月だけを想っていたい」
「うん、私も例え自分の力が弱まろうと、空良以外とはプレイしたくないよ」
真摯な声音で言われ息を呑んだ。
互いに手早く全身を洗うと風呂を後にした。
着ながしのまま横抱きで布団まで運ばれ、白月がちゃんと布団を敷いて準備する間その少し後ろで待つ。
今からこの上で淫らな事をするのかと考えては頭を振る。羞恥プレイにも程がある。脳が沸騰してしまいそうだ。
考えないように視線を他所にやりながら、モジモジと左右の足を動かしていると白月に顔を覗き込まれた。
「気になる?」
「それはその……。うん」
これから白月に抱かれるのかと色々考えてしまうと言えば、引かれてしまうだろうか?
「怖い?」
首を振る。ドキドキして心音はうるさいけれど、怖くはない。
「白月が相手なら怖くないよ。ただ誰ともした事がないから、上手く出来なかったらごめん」
「構わないよ。それに私は空良の嫌がる事はしないよ」
「さっきした」
「あれは空良が可愛すぎるから、つい。ごめんね、もうしないよ」
苦笑混じりに言われる。
「嘘だよ。白月ならいい。信用してる」
「空良、セーフワードは何にする?」
唐突に聞かれ、目を瞠った。
「プレイも……してくれるの?」
「さっき言ったでしょう? 空良以外としたくないって。私のサブは空良だけだよ。風呂場での会話はパートナーとしてプレイもしながらって意味だと思ってたんだけど、空良は違った?」
勢いよく左右に首を振った。
「違わない!」
白月は一度立ち上がると、襖の向こうへと消えて小さな瓶と箱、手鏡を持って戻ってきた。
「じゃあ、これは私からの贈り物。本当は少し前にはもう準備していたんだ」
箱からチェーンのような物を取り出して、首に何かをつけられた。自身の手でなぞってみると、ネックレスなのが分かって息を呑んだ。
「白月これ……」
「カラーだよ。空良には太めの物より華奢な作りの方が似合いそうだと思って、買ってきた」
「買ってきたって、え?」
妖は金を持っているものなのだろうか。思考を巡らせていると、白月が口を開いた。
「神楽がね、現代の人の子と生きていきたいなら、ちゃんと今の暮らしを覚えるべきだって煩くて。体の主の記憶を頼りに色々教えてくれるんだよね。投資やら株やら覚えさせられたから空良が仕事に行っている間は、神楽と一緒にそればかりしていたよ。神楽は体の主が戻りたいって言った時、お金がないと暮らして行けないだろうと思って稼いでいるみたい。いつ戻ってきても働かなくても不自由なく暮らして欲しいんだって。自分が居ない時に起きた事件だったから責任感じてるんだろうね」
「そっか……」
憶測でしかないけれど、話を聞いている限りではそれ以上の感情も抱いている気がした。神楽の想いが届いて、その人がまた戻る気になれる事を願った。
「はい、神楽の話は終わりね。このカラー気に入ってくれた? 鏡で見てみる?」
「見たい!」
白月に渡された手鏡で確認する。白月の瞳の色と同じ鉱石が嵌め込まれたチェーンタイプのカラーが付けられていた。
「ありがとう。白月みたいで綺麗。大切にする」
「空良に喜んで貰えて良かった」
「セーフワードなんだけど、白群ってどう? 白月の瞳の色だよ。僕、白月の瞳の色がすごく好きなんだ。ああ、でも好きなものをセーフワードにしたらダメかな。て、待って。えええ⁉︎ 何でまた泣くの? これもまた前と同じだった?」
涙を流した白月が空良の肩に額を預ける。
「空良。空良……大好き。やっぱり空良は空良なんだね。嬉しい」
また泣かせてしまった。白月の頭を抱え込んで撫でる。
「白月、そんなに寂しがり屋で泣き虫なのにどうやって五百年も待てたの? 何で白月を置いていけたのか、僕は今、前の僕にイラっとしてるんだけど……。人間は妖になれないの?」
「人の子と私たちは根本的な在り方が違うからね。でも、眠りにつく事は可能だから、その間は時代ごとにあっという間に過ぎていったよ。そろそろ始めていい? 私、空良に触れたい」
頬に触れられて口付けられた。
「うん」
「——少しでも違和感を覚えたらすぐにセーフワード使ってね」
「分かったよ」
「返事出来て——良い子だね、空良」
気持ちが上向いていき、驚いて瞬きする。もう始まっていたようだ。
布団の横に腰掛けた白月が自身の右太腿を二度叩いてみせる。
「——おいで」
心や思考とは別で自分の体が意思を持っているように立ち上がり、白月の元へと引き寄せられた。
「良い子だね。次は此処に——横向きに座って?」
指示通りに太腿に腰掛けるとそのまま横抱きにされる。
「——ちゃんと出来たね」
前髪の上から口付けられると、高揚感で胸が踊っていて、耳をあてなくても大きな心音が聞こえてきそうなくらいだった。
血の巡りも良くなって全身が熱い。自分の変化に戸惑ってしまい、空良は自身の足をもたつかせた。
「空良、——今どんな気持ちか聞かせて?」
「うん……、心臓がドキドキしてて……でもとても気持ちが良い」
「ふふ、それなら良かった。——コマンド通りに言えて偉いね空良。良い子」
フワリと気分が持ち上げられる。目の前で光が散っている気がして、酩酊感にも似た浮遊感がとても心地良い。
「空良、——私を見てごらん?」
「白……月、あの……」
言われた通りにしっかり目を合わせた。
「いいよ。——話して?」
頬を撫でられ、下顎も親指で擦られる。白月が言葉を発する度に頭の中がフワフワしていた。
「ん、気持ち良過ぎて……体もおかしい」
「ふふ、それは良かった。——私の言う通りに出来て良い子。——口を開けてごらん?」
白月に褒められる度に、頭の中が真っ白になっていく。
ゆっくりと口を開いてみせると、口付けられたまま体勢を変えられ、足の上に対面する形で乗せられた。
口付けが深くなり、淫靡な水音を響かせて何度も角度を変えて唇を重ねる。
「——良い子だね。空良、——布団の上に転がろうか?」
コクリと頷いて、仰向けに身を倒す。もう何も考えられないくらいに気が昂っていて、呼吸も荒くなっていた。
——何これ、体も頭の中も変だ。
「——上手。空良、サブスペースに入りかけているね。気持ち良さそう。——空良の方から私に口付けてみて?」
覆い被さってきた白月の頬を両手で挟んでもっと引き寄せる。啄むくらいのキスにしかならなかったけど白月は頭を撫でてくれた。
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