ドム嫌いの人間サブは妖ドムに妄愛される

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 *  いつものように会社を出て、神社へと急いでいた。  着いたら人の目をかいくぐって直ぐにわらべ歌を口ずさむのだが、今日は先客の姿を確認出来たのもあって、迂闊に口に出来なくなってしまった。  ——何で?  嫌悪感が込み上げてくる。 「どうして貴方が此処に居るんですか、伊藤さん?」  自分より先に此処にいるとなると、前回かその前につけられていたのかも知れない。  このまま白月を呼ぶわけにはいかなくて、ギュッと両拳を握った。 「よう、随分ふざけた真似してくれたな。お返しに来てやったぜ」  吸っていたタバコを近くにあった老木に押し付け、伊藤はズボンのポケットに両手を突っ込んだ。 「Grare!」  ねっとりとねばつくような圧を放たれ、身体が硬直して微動だに出来なくなった。  ——気持ち……悪い。  とことん相性の悪い相手だと思う。伊藤の存在自体が受け付けない。  今まで感じた事がないくらいの強度を持っていたが、このまま言いなりになるのだけは嫌だった。  もしサブドロップして動けなくなったとしても屈したくない。必死で伊藤を拒絶した。 「僕に……、近付かないで下さい!」 「俺に跪け(Kneel)」  グッと奥歯を噛み締める。 「嫌、です」  気を緩めると地に落ちそうな膝に力を入れて左右に首を振った。  ——こんな人にもう二度と屈したくない!  しかし、初めにグレアを飛ばされたのが災いして思っていた以上の圧力がかかっていた。  ——ダメだ。力が入らないっ。  ブレて見えにくい視界に伊藤を映し出す。 「何で……僕に構うんですか? 貴方の執着は……っ、異常だ」  息も絶え絶えに問いかけると、伊藤が舌打ちした。 「Shush-だま……「ひれ伏せろ(Grare)」……!」  伊藤の言葉に被せるようにして、聞き覚えのある声が聴覚を揺るがす。瞬間、伊藤が膝をついて座り込み、怯えたように体を震わせて頭を垂れた。 「空良に近付くなと言った筈だ」  いつもフワリと優しい笑みを浮かべる白月が地を這うような低い声で言い放つ。背後にいても、伊藤を威嚇して圧を放ち続けているのが伝わってきた。 「しら、つき」 「大丈夫だよ空良。ここから先はサブの空良にはきついと思うから、離れて耳を塞いでいてくれる?」 「ん……、分かった」  動かし難い体を引きずるように、言われた通りに距離を取って手で耳を覆う。 「——良い子だね、空良(good)」  振り返った白月に頭を撫でられ、体の怠さが抜けていく。白月の体の周りが白いオーラで包まれていた。  ——綺麗だ。  周りで光が舞い、白月のオーラと混ざっていく。渦の様に白月を包み込んで、それが伊藤を攻撃するかのように時折り絡んでいた。 「おい、白月。ソイツは俺に寄越すって約束だろ?」  突然現れた第三者の存在に驚いた。そこには神楽がいた。 「あ……忘れてたよ。分かった。持ってっていいよ。もう二度と空良にも手を出させないようにしといてよね」 「任せろ」 「お前……志島? 何で……っ」  伊藤が動揺を隠せないように瞳を揺らしている。それを見てピンときてしまった。  ——まさか……。 「輪姦して山に捨てたのに何で生きて此処にいるかって? そこの木陰に隠れてやがる奴も一緒だ。最近連絡のつかない残りの二人がどうなったか教えてやるよ。異界で物怪共と楽しく鬼ごっこ中だ。お前らも今日から仲間入り出来るぞ。また一緒になって遊べるんだ。嬉しいだろ? まあ、狩られるのはお前らだけどな。捕まればお前らが尊留やその他のサブにしてきた事と同じ事をされる」  神楽から冷ややかな視線を浴びせられ、伊藤が「ひっ」と短い悲鳴をあげた。 「俺は断罪者。コイツの代わりに復讐を誓ったモノ。お前には白月が一度チャンスをやったんだろ? それでも懲りなかったんだ。それ相応の覚悟は出来てる筈だ」 「待て! 俺は……、俺はアイツらに唆されて混ざっただけだ!」 「——黙れ!(shush)」  今度は神楽の重苦しい赤いグレアとコマンドを浴びせられて地に埋まりそうな程に縮こまっている。  猫の子を運ぶように神楽は伊藤の首根っこを引っ張って、木陰に隠れていた男にも圧を飛ばすなり空に浮遊させていた。そしてそのまま異次元空間の中に消えていった。  一連の流れを見ていて、神楽が復讐の為に動いている事件に伊藤も絡んでいたのだと初めて知り背筋が寒くなる。  見知らぬ人物がいたのを考えると、自分も神楽の想い人と同じ運命を辿る予定だったのだろう。ゾッとした。 「空良、大丈夫?」  白月に横抱きにされ、顔を覗きこまれる。 「平……気。助けてくれてありがとう、白月」  恐怖を感じていたのに、近付いてきた白月が放つオーラが余りにも綺麗で温かくて心地良過ぎて、頭の芯から思考を蕩けさせられた。  安堵を通り越してコマンドを発令されている時みたいに高揚感に満ちていく。 「ん、ん……ぁ。白月……?」  やたら鼻にかかった声が吐息と共に口からこぼれる。内心は複雑で、こんな事してる場合じゃないと考えてしまうのに、その反面どうしようもない程のサブの本能に支配されていた。  白月からコマンドが欲しくて欲しくて堪らない。 「しら……つき」 「あ、しまった。グレア解くの忘れてた。私の気に当てられちゃったね。ごめん空良。一応手加減はしてたんだけど……サブスペースに入っちゃってるね」  そのまま異次元空間の扉を潜って、白月の住む屋敷に着いた。  荒く甘ったるい息を短くハフハフと繋げる。 「白月、白月ぃ、好き。……かれたい。白月に抱かれたい。コマンド……欲しい」 「ふふ、可愛い」  前にサブスペースに入った時よりも頭の中がフワフワと飛んでいて、自分が何を言っているのか、何をしているのかも分かっていない状態だった。 「空良。——私に口付けて?」  白月の首に両腕を回して、啄むように何度も唇を押し当てる。 「——ちゃんと出来て偉いね、空良」  意識が何度も途切れ、空良は恍惚とした表情を見せた。 「白月、もっと欲しい。白月のコマンド、欲しい」  意識が一旦戻ってきた時には、白月に体中に口付けられていて、もう互いに服を着ていなかった。  意識が飛んでいる時に解されたのか、白月を受け入れる準備も済まされている。内部で出し入れされる指が良い所を掠める度に、気持ち良くて自らも腰を擦り付けた。  口付けを交わし合いながら体温を分け合った。
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