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 わたしはショックのあまり、アルバイトを辞めた。部屋に引きこもり、何もせず寝て過ごした。まったくやる気が出なかった。このまま消えてしまいたかった。  スマホのメールには「早く鍵を返してほしい」と連絡があったが、無視した。  どうしてわたしがこんな目に?わたしの何がいけなかったの?もう一度会いたかったが、アルバイトを辞めてしまったのでクラブに行くお金がない。完全な八方塞がりだ。  わたしはその時、アキラの部屋にドライヤーを置いてきたことに気づいた。部屋の合い鍵を返すついでに、アキラの部屋に行こうと決めた。  アキラは大学院生で、昼間は研究室に入り浸っているから、部屋にはいない。  わたしはアキラと顔を合わせない昼間を選んで、部屋を訪れた。  合い鍵を差してドアを開けた。相変わらず整理整頓された部屋。  わたしはアキラの部屋に泊まりにいった時は、リビングルームでドライヤーを使っていた。  リビングに向かおうとしたその時、ドアの鍵を開ける音がした。アキラが帰って来た?まさかの展開にわたしはテンパった。  目の前に茶色い大きなクローゼットがあった。わたしは反射的にクローゼットの中に身を潜ませた。  クローゼットの中はスーツや私服がハンガーに吊るされていた。扉の隙間から部屋を見渡せる。  しばらく息を潜めていると、一人の長身の女性が現れた。こいつだ。アキラの心を奪った女だ。
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