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 女は辺りを窺うように部屋を見回した。  一瞬、女と目が合った気がして、わたしは声を出しそうになった。だが、女性はクローゼットの中のわたしには気づいていないようだ。  女は部屋に堂々と姿を現した。  身長は百七十前後か、細身のパンツに麻のジャケットを着ていた。いわゆる冷たい美人の顔。丸顔のわたしとは対照的だ。  女は突然、手袋をはめると箪笥や机の引きだしなどを漁った。ん?どういうこと?もしかして、この女は空き巣なのか?  わたしはクローゼットの中でパニックになりそうだった。  女は机の引きだしの中から目当てのものを発見したらしく、携帯に電話をかけた。 「田無署の三村です。被害者がはめていたと思われる指輪を見つけました。今から照会にかけようと思います」  女は低いよく通る声だった。  この女は刑事なのか?なぜ、刑事がアキラの部屋に?  女は一度だけ、クローゼットの前に立った。  わたしは扉を隔てて向かい合っている。わたしは心臓が口から飛び出るほどドキドキした。  もし、バレたらわたしは捕まるのだろうか?不法侵入で捕まるなんて嫌だ。  しかし、刑事はクローゼットには興味をなくして、部屋を出て行った。  わたしは自分の部屋に戻って考えた。被害者の指輪ってなんだろう?アキラは何か良からぬことをしているのか?  最近、ホストクラブでは来店客にガンガン酒を飲ませて、払えないほどの料金を請求したりする。払えない場合は闇金融から借金させたり、ものを売ってお金に替えたり。最悪な場合、風俗店に斡旋されて、そこで料金を払え終わるまで働かされるのだ。  いわゆる現在、社会問題になっているホストクラブの売掛金だ。政府も事態を重く見て、救済措置を急いでいる。  もし、アキラが売掛金に関わっていたら、どうしようと思った。今は恋人でもないのに、余計な心配をしているわたしって、ある意味、幸せなのかな?と思ってしまう。  とにかく、アキラにやめさせないと。アキラの将来が潰されてしまう。だが、アキラに連絡しようにも着信拒否されているし、お店に行くお金もない。  どうしようと、ない頭を振り絞って考えているうちに、名案が浮かんだ。
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