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 女は家探しに夢中で、動画を撮られているなどとは想像すらしていないだろう。  わたしはほくそ笑んだ。  その時、ドアに鍵が差し込まれる音がした。え?もしかして、アキラが帰宅した? 「やっぱりおまえ、刑事だったんだな」  アキラがものすごい形相で部屋に現れた。わたしはドキッとした。アキラのそんな表情を見たのは初めてだったからだ。 「あなた、連続無差別殺人事件の犯人ね。証拠品は押収できたわ。観念しなさい」 「俺としたことが、あんたのハニートラップにかかってしまうとはな。でもな、俺は捕まるわけにはいかないんだな」  わたしは二人が対峙しているところを夢中になって撮った。  突然、アキラは女刑事に襲いかかった。不意打ちを食らった女刑事はあっという間に床に組み伏せられた。アキラは女刑事に馬乗りになると、首に手をかけた。  わたしはパニックを起こしそうになりながらも息を潜めて動画を撮り続けた。  アキラは女刑事の首を絞め始めた。女刑事は手足をばたつかせたが、抵抗虚しく、事切れてしまった。  ああ!なんてこと!アキラが無差別殺人事件の犯人だったなんて。こんなの嘘だ。アキラと彼女がわたしをドッキリさせているんだ。そう思わないと、わたしは発狂しそうだった。  わたしの手はいつの間にか震えていた。スマホの動画のスイッチを切ろうとした時、思わず手を滑らせてしまった。  スマホはわたしの足元に落下し、ゴトリと音を立てた。  わたしは再び、パニックに襲われた。  隙間からアキラがこちらをすごい形相で睨んでいた。ああ、わたしの知っているアキラはそこには、いなかった。  アキラはゆっくりとクローゼットに近づいてきた。  わたしは女刑事といっしょに殺されるのだろうか?そんなの...いや、アキラに殺されるなら、いいかもしれない。  願わくば、わたしを一番最後の被害者にしてほしい。そう思うわたしって、ある意味幸せなのかな?  そんなことを考えていたら、クローゼットの扉がゆっくりと開かれた。       <了>
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