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「好きな人ができたんだ。別れてほしい」
唐突にアキラから別れを切り出された。
わたしはかぶりついた焼き鳥を口に咥えたまま、平静なアキラを見返す。
「え?それってつまり?」
「今まで通り、お客として来店してくれて構わない。ただ、部屋の行き来はなしだ」
わたしはようやく、焼き鳥を口から外した。
「理由を聞かせて」
アキラは居住まいを正す。
「聞いていなかったのか?好きな人ができたんだ」
「嘘。ホストは心を奪う商売でしょう。心を奪われるなんて...」
わたしは言葉が続かなかった。馬鹿げてる。ホストの沽券に関わる。
「みなみちゃんのおかげで、俺はベスト5に入れた。感謝している。ただ、もうこういう関係は解消したい」
「ねえ、アキラの心を奪った人って、どんな人なの?」
アキラはバツが悪そうに言った。
「企業秘密で言えない。とにかく、話は終わりだ」
アキラは一万円札をテーブルに置いて、席を立った。
「待ってよ。こんなのあんまりだよ」
「みなみちゃんにはもっと相応しい人がいるよ。ホストみたいな男とは早く切った方がいい」
わたしは泣いた。女の涙には弱いはずだと計算が働いた。だが、アキラは背中を向けて、わたしから離れていった。
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