ステイブルメイツ

2/32
前へ
/32ページ
次へ
「冬吾、何か食うか?」  焦げ茶色のカウンターに座る早川さんは、聞こえていないのか、小説のページをめくりながら下を向いたままだ。 「それにしてもまったく、あいつらどこまで飯を食いに行ったんだ」  舌うちでもしそうな口調で呟く芦住マスターは、重ねられた真っ白なスクエアプレートを戸棚から取り出し、調理台の横に置いた。  不機嫌になるのも当然だ。もう開演予定時刻を五分も過ぎているのだから。  Lazy Birdは、駅前から離れた場所にあって、セカンドステージが長引くと、電車の時間を気にして帰る客もいる。だからこそ、マスターは時間厳守にうるさい。  まだジャズバーとしては中堅にあたるLazy Birdに、世界で活躍するミュージシャンが時折やって来るのは、マスターの人脈と心遣いの賜物だとしか思えない。普段は学生からプロまで玉石混交だけど。  前菜の入ったステンレス製のバットが並べられている。色鮮やかな料理は、目にも楽しい。バットからプレートに前菜を盛り付けだすと、マスターが私の横から覗き込んで、うーんと首を捻った。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加