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「冬吾、何か食うか?」
焦げ茶色のカウンターに座る早川さんは、聞こえていないのか、小説のページをめくりながら下を向いたままだ。
「それにしてもまったく、あいつらどこまで飯を食いに行ったんだ」
舌うちでもしそうな口調で呟く芦住マスターは、重ねられた真っ白なスクエアプレートを戸棚から取り出し、調理台の横に置いた。
不機嫌になるのも当然だ。もう開演予定時刻を五分も過ぎているのだから。
Lazy Birdは、駅前から離れた場所にあって、セカンドステージが長引くと、電車の時間を気にして帰る客もいる。だからこそ、マスターは時間厳守にうるさい。
まだジャズバーとしては中堅にあたるLazy Birdに、世界で活躍するミュージシャンが時折やって来るのは、マスターの人脈と心遣いの賜物だとしか思えない。普段は学生からプロまで玉石混交だけど。
前菜の入ったステンレス製のバットが並べられている。色鮮やかな料理は、目にも楽しい。バットからプレートに前菜を盛り付けだすと、マスターが私の横から覗き込んで、うーんと首を捻った。
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