ステイブルメイツ

5/32
前へ
/32ページ
次へ
「おい、どこに行くんだ」 「演奏ですよ。もう開演時間が過ぎていますから」 「まあいいか。よし、観客がごちゃごちゃ言いださなかったら、今日は奢ってやる」  早川さんは口角を上げてマスターを見ると、そのままステージのほうへ歩いて行ってしまった。 「マスター、いいんですか。まだバンドメンバーも揃っていないのに。もう少し待ってもいいんじゃ」  一人でどうするんだろうとマスターを見ても、慌てる様子はない。 「茅野たちには悪いが、どうせ今日の客の目当ては冬吾だからな。いいんじゃないか」  今夜はいつもより女性客が多い。つまり早川さんのファンばかりいうことなんだろうか。  ピアノ椅子に座った早川さんの横顔を見る女性たちの表情は、うっとりとしているようにも見える。 「それって、つまり見た目がいいからですか」  口に出してから、失礼な発言だと気づいた。しまったと口に手のひらを当てると、マスターが豪快に笑う。 「それもあるんだろうけどな。楓は冬吾のピアノを聴くのは初めてだったか。聴いたらわかるかもしれんぞ。それより調理台の上がいっぱいになるから、早くプレートを運んできてくれ」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加