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渡されたプレートをいくつか持って、客席へのテーブルへと向かった。下がろうとすると、背後でピアノ椅子が軋む音がした。それを合図に店のライトが落ち始め、流れていた音楽の音量も下がっていく。
若干ざわつきながらも、客はピアノに視線を向ける。
息を吸い込んだ早川さんの肩が僅かに上がり、指先が鍵盤の上に下ろされる。一音鳴っただけで店の空気が変わり、カトラリーの音が止まった。哀愁を感じさせる「In a sentimental mood」のメロディが張り詰めた音で奏でられだすと、吸い寄せられるように私は彼の手元を見てしまっていた。
マスターの言葉は嘘じゃなかった。こんなピアニストが近くにいたなんて。
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