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第10話
恐る恐るダイニングルームを覗くと、既に妻……エリザベスが燭台の明かりに照らされて着席していた。
ブロンドの巻き毛に、大きな青い瞳の我妻。
あぁ、どうして俺はこんなに愛らしい妻がいるというのに浮気をしてしまったのだろう。
エリザベス……離婚なんて、嘘だよな?
そんなにこの俺が不満だったのか?
離婚を告げられることを知り、激しい後悔が押し寄せてくる。
俺が覗き込んでいることに気づいたのか、エリザベスは笑顔を向けると立ち上がった。
「お帰りなさいませ、カール様」
「あ、あぁ。ただいま……」
「どうなさったのですか? そんなところに立っていないで、中にお入りになって下さい」
「そうだな……」
いそいそと中へ入り、はたと気付いた。いや、そうじゃないだろう? まず初めに言うべき言葉があるじゃないか!
「会いたかったよ、エリザベス! この5日間、毎日君に会いたくてたまらなかった! 今再びこうして会えて俺は嬉しくてたまらないよ!」
大げさな素振りでひざまずき、両手を広げて喜びを表現した。するとエリザベスは怪訝そうな表情を浮かべる。
「カール様……そんな格好をされて一体どうなさったのですか?」
何? 俺の喜びの気持ちが伝わっていないのか?
「い、いや……エリザベスに会えた喜びを表したつもりなのだが……何しろ5日ぶりの再会だろう?」
「だとしたら、本宅にいらして頂いても少しも構わなかったのですよ? 何しろ、この屋敷から本宅まで馬車を急いで走らせれば30分もあれば到着しますから」
う! 中々痛いところをついてくる。
「そ、それは……親子水入らずのところを部外者の俺が、お邪魔するわけにはいかないかと思って遠慮を……」
「カール様は私の夫ですよね? 部外者ではありませんわ。何も遠慮などする必要はございません」
「それはそうなのだが……仕事で疲れている表情を見せるわけにもいかないだろう? 君に余計な心配をかけさせたくはなかったんだ」
「なら電話でも宜しかったのですけど?」
「あ……なるほど、そうか……。で、電話ね……」
駄目だ、話せば話すほど墓穴を掘ってしまう!!
思わず髪をかきむしりたくなる衝動を理性で押し止める。
「フフフ。そんな困った顔をなさらないでくださいな。お仕事でお疲れのところ申し訳ありませんでした。カール様の真剣な様子がおかしくて、ついからかうような言葉を口にしてしまいました。さ、いつまでも跪かないで椅子にお掛け下さい」
クスクス笑いながらエリザベスが向かい側の椅子を勧めてきた。
「そうだな。座らせてもらうか」
しかし、着席したものの、まだ料理は並べられていない。
一体どういうことだ?
首を傾げるとエリザベスが説明した。
「カール様が席につかれてから、出来立ての食事を並べるように給仕に説明してありますの。何しろ、今夜は大切なお話がありますから」
「大切な話……?」
いよいよか?
ついに俺はエリザベスに離婚を切り出されてしまうのか?
だが、まさか食事前に離婚を要求してくるつもりだったとは思わなかった。
だが、どのみち今の状況では食欲など皆無。
彼女から離婚の話が出る前に俺から全て白状して許しを請い、スッキリした気持ちで食事をすればいいだけだ。
「カール様、今夜は……」
先に言わせてたまるか!!
「エリザベス!! 俺が悪かった! どうか許してくれ!! 頼む、 この通りだ!!」
エリザベスが離婚を告げるより早く、素早く立ち上がると頭を下げた――
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