第12話

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第12話

「うわぁああっ!?」 背後から声をかけられ、驚いて振り向く。 「うわぁっ!!」 さらに驚きの声を上げてしまった。だが、こればかりは仕方ない。何しろ、振り向いた先に立っていたのは……。 「全く、君と言う男は……成人男性のくせに、大きな声で喚きおって」 「確かに、少し叫びすぎですわね」 「お、お義父さん? それにお義母さんまで!! いつからいらしていたのですか!?」 腰が抜けそうに驚いた。けれどもテーブルを支えに、何とか耐え忍ぶ。 「いつから? そうだな、君がエリザベスに謝罪したときからかな」 義父が腕組みする。その顔には眉間にシワが寄っていた。 「そ、そんな……」 謝罪のときからいた? ということは最初から全て話を聞かれていたということじゃないか! そのとき、ふと義母と目があった。 「お、お義母さん……足の怪我はもう治ったのですか?」 「ええ、おかげさまですっかり良くなったわ」 ニコリと笑みを浮かべる義母。 「そうでしたか……完治なさったのですね? おめでとうございます……」 「そんなことより、まずは席に座ろう」 「ええ、そうね。あなた」 義父は義母に声をかけ、2人は俺の傍を通り過ぎて席に着席する。 ……俺も座るべきなのだろうか? 椅子を引いて、着席しようとした時。 「エリザベス、可哀想に……泣いているのか?」 突然義父の言葉に驚いて、エリザベスを見上げると彼女はハンカチを顔に押し当てていた。 「な、泣いていたのか!?」 義父母に気を取られて、エリザベスの様子に気づかなかった。 「可愛そうなエリザベス……結婚記念日を忘れられていたどころか、浮気までされていたのね?」 「お母様……」 義母がハンカチで目を押さえた彼女の頭を撫でる。 「それどころか浮気相手と遊ぶ金欲しさに、金までちょろまかしていたとは……」 義父が鋭い目で俺を睨みつけてきた。 「う!」 痛いところをつかれ言葉が出てこない。座ることも出来ず立ったまま3人の様子を眺めるしか無かった。 駄目だ。このままで黙っていては、増々フリな立場に立たされてしまう。 何か、何か言わなくては……。 「あ、あの……ところで、何故今日お二人はこちらに……?」 引きつった笑みを浮かべながら勇気を振り絞って義父に恐る恐る尋た。 「何故こちらに? そんなことは決まっている。今日は2人の初めての結婚記念日だ。だから全員で祝おうとここへ来たのではないか」 「本当なら、てっきりお見舞いに来てくれるかと思っていたのよ。だからそのときに、結婚記念日のお祝いの話をしようかと思っていたのだけど、随分忙しかったようね? だから屋敷に顔を見せに来なかったのでしょう?」 「……」 鋭い指摘に、何も言えない。 「それにしても結婚記念日を忘れるどころか、金をちょろまかして愛人と楽しんでいたとは……嘆かわしい。君は私達の娘よりも愛人の方が余程大切なようだな」 愛人だって? メリンダが?  俺は一度だって、彼女を自分の愛人だと思ったことすら無いのに? 「ちょっと待ってください! 彼女は愛人などでは……」 「なら、恋人と呼べば良いのかしら?」 エリザベスを抱き寄せていた義母が冷たい声で尋ねてくる。 「こ、恋人……?」 「そうなのですか? カール様」 泣いていたエリザベスが顔を上げて、訴えてきた。 「ご、誤解だ! 彼女は……」 「全く、往生際の悪い男だ!! いい加減に自分の罪を認めろ!! 大体、何故結婚記念日という大事な日に自分の浮気を告げるのだ!? 少しくらい、配慮するべきではないのかね!?」 義父がついに怒鳴りつけてきた。 「違います! それはエリザベスの引き出しに離婚届が入っていたからで……」 「離婚届なんて知りません。私、そのようなもの引き出しにしまったことすらありません」 エリザベスが首を振る。 「何だって!? 知らない!?」 その言葉に衝撃を受ける。 けれど、彼女は嘘を付くような女ではない事は俺がよく知っている。 「だったら、誰が……」 まさか、誰かにハメられたのか? 誰だ、執事か? それともあの無表情なメイドだろうか……? もしくは給仕のフットマン……。 駄目だ、疑うべき人間が多すぎる。 この屋敷は……俺の敵ばかりだ! 「……先程から、何を突っ立っているんだ?」 ジロリと義父が睨みつけてきた。 「あ、今座り……」 椅子を引いて着席しようとすると、さらに義父が言葉を続ける。 「何を座ろうとしている! これ以上、君の顔を見ているだけで腹立たしい。今すぐ出て行きたまえ!」 「出ていけですって!? い、一体何処に!?」 あまりの言葉に一瞬、頭の中が真っ白になる。 「成人男性なのだから、御自分で考えられたら良いでしょう? 何ならメリンダとかいう女性のところにでも行かれたら? そもそも、ここはエリザベスに与えた屋敷であって、あなたに与えたものではありません」 こんな場面で、義母はとんでもない言葉を口にする。 もはや、こうなってしまえばエリザベスが頼みの綱だ。 「エ、エリザベス……?」 震えながら声をかけるも、彼女は俯いて首を振るばかりだ。 「そんな……」 グラリと身体が大きく傾く。 「何をしている? さっさと出ていけ!!」 「ヒッ!」 トドメの義父の怒鳴り声に情けない悲鳴が上がる。 「も、申し訳ございませんでした!! 今すぐ、出ていきます!!」 彼らに背を向けると、俺は脱兎の如くダイニングルームを飛び出した。 周囲でこちらを冷たい目で見る使用人達に追い立てられるように。 そして、この夜。 行く宛も無いまま、俺は屋敷を追い出されてしまった――
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