211人が本棚に入れています
本棚に追加
第14話
「やはり、ここへやって来たか。こそ泥のようにコソコソとな」
腕組みした義父が鋭い眼差しで睨みつけていた。背後には3人の警察官の姿もある。
何故警察官を連れているのかは不明だが、俺は元気よく反論した。
「いえ、コソコソなどしておりません。堂々と出勤してまいりました!」
何しろ、ここは俺が設立した会社なのだから臆することは無いだろう。
「堂々だと……? 尚更質が悪いわ!!」
「す、すみません!!」
俺以上に大きな声で怒鳴りつけられ、咄嗟に謝罪してしまった。
何と言う迫力だ……物凄い圧を感じる。
「さて、念の為に尋ねよう。一体、お前は何をしにここへやって来たのだ?」
「そんなこと、聞くまでも無いではありませんか。仕事をしに来たのですよ。私はこの会社の社長……」
そこで言葉を切った。
何故なら義父の殺気を含んだ視線が怖かったからだ。
「お前はまだ自分の立場というものを分かっていないようだな? この会社をここまで大きくすることが出来たのは、私がこの会社の名義を買い取ったからだろう!? 違うか!?」
「いいえ! 違ってなどおりません! まさにおっしゃるとおりです! で、ですが最初に会社を立ち上げたのは、この私ですよ? ここで働く権利は十分あるはずです」
「ああ、だからお前を社長として雇ってやった。何しろ、大事な娘の夫だからな」
「だったら……」
義父の言葉に少し、安心を抱いた。良かった、話し合えば分かってくれるかもしれない。
「何を安心した顔をしている!! いいか? お前は妻があり、婿養子という立場にありながら、会社内で堂々と浮気をしていたのだぞ!! しかも相手は自分の秘書のメリンダと言うなの女とだ! 会社内だけでは飽き足らず、外では変装までして密会していたではないか!! 姑息な手段を取りおって……恥を知れ!!」
「ええ!? な、何故変装したことまで知ってるのですか!?」
よりにもよって、義父は会社内で大きな声で俺とメリンダのことを暴露してくれた。
警備員は面白おかしそうに俺を見ているし、警察官たちは軽蔑の眼差しを向けてくる。
しかも窓からは大勢の従業員たちが顔を出して、こっちを見つめている。そのうちの何人かは、俺と視線があったとたんに目を背けた。
もしや……あいつらが義父に密告したのか?
だが、今はそれどころではない。こんな大勢の前で赤っ恥をかかされてしまったのだから一言、訴えなければ。
「お、お義父さん。いくら何でも、こんなところで大きな声でバラすなんて酷いじゃないですか! 私にだって、人権くらい……」
「黙れ!! だったら、エリザベスはどうなのだ!? 娘にだって人権はある!! それなのに結婚して1年も経たずに裏切りおって!」
「そ、それは……」
駄目だ、義父の言葉はあまりにも正論すぎて反論の余地が無い。
おまけに社員たちの視線が先程から痛くてたまらない。
こっちを見るなと口で言えない代わりに、社員たちを睨みつけた途端、義父の雷が落ちる。
「何だ、その生意気な目つきは!! お前には睨む権利すら無い!!」
「も、申し訳ありません!! どうかお許しください!」
ビシッと指を差されて、必死になって詫びるしか無かった。
「とにかく、この会社はもうお前の物ではない! とっとと消え失せろ! 当然、屋敷にも戻ることは許さぬ! 金輪際、二度と出入り禁止だ!」
一体、どこからそんな大きな声が出せるのだろうかと思うぐらいの義父の迫力はすごかった。
先程から、身体の震えが止まらない。
だが……ここで引くわけにはいかない!
絶対に、これだけは言わせてもらわなければ――!!
最初のコメントを投稿しよう!