第4話

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第4話

 二人きりの時間を楽しみ、屋敷に帰宅したのは22時半を少し過ぎたところだった。 「メリンダを家まで送ったせいで、帰宅が遅くなってしまったな……」 懐中時計を見ながら屋敷の前にやってきたとき、突然眼の前の扉が大きく開け放たれた。 「うわぁおああっ!?」 驚きのあまり、奇妙な叫び声をあげてしまった。 「おかえりなさいませ、カール様。随分と遅い御帰宅でいらっしゃいましたね」 出迎えたのは気難しい表情の執事だった。 「おい!! いきなり目の前で扉を開けるな! 心臓に悪いだろう!?」 胸を押さえながら、文句を言った。 「おや? 何だか酷く怯えていらっしゃるようですが……まさか、何かやましいことでもあるのでしょうか?」 まるで全てを見透かすような執事の冷たい視線に背筋が寒くなる。 「ま、まさかそんなはずないだろう? 取引先との商談で食事会があったのだ。ほら、いつも月に2回あるだろう? あれだよ」 「なるほど、定例の行事というわけですね?」 「あ、あぁ。そういうわけだ。それでは俺は部屋に戻って休ませてもらう」 定例の行事……その言葉に何処か嫌味を感じつつ、執事の脇を通り抜け……。 「お待ち下さい、カール様」 背後から声をかけられ、思わず肩がビクリと跳ねてしまう。 「何だ? まだなにか用があるのか?」 冷静を装いながら返事をする。 大丈夫だ……絶対にバレるはずはない。レストランの予約だって偽名を使って入れているし、念には念を入れてメガネにカツラをつけていたのだから。 「はい、奥様からお電話で伝言を承っております」 「エリザベスから? 用件は何だった?」 「大奥様の足の具合ですが、3、4日程安静にしていれば良くなられるそうです。なので、あまり心配しなくても大丈夫とのことでした」 「あぁ、なるほど。そういうことだったのだな」 まずい、義母が足の怪我をしていたことをすっかり忘れていた。 「それでは、エリザベスが屋敷に戻るのは……」 「正確な日程は伺っておりませんが、恐らく4日後には戻られるかと思います。何か御伝言はありますか?」 「伝言か……そうだな。では、通帳と鍵の件だが……」 「何ですと? 通帳と鍵とおっしゃられましたか?」 執事の目が光った……気がする。 「い、いや。何でもない。特に伝言は無いな」 「何と、今……無い、とおっしゃらましたか?」 「ああ、言った。どうせ4日後には戻ってくるのだろう?」 通帳と鍵の件はエリザベスが帰宅してから聞こう。 「大奥様や旦那様に伝言は無いのでしょうか?」 「何だって? 伝言……」 そこで気付いた。そうか……執事の言いたいことが分かったぞ。 「どうぞ、お大事にして下さいと伝えておいてくれ。仕事があるので、お見舞いに伺えなくて申し訳ないです。と、ついでに言葉を添えておいてくれるか?」 「はい、かしこまりました。カール様」 まただ、いつになったら旦那様と呼ぶのだろう。だいたい、この屋敷で働いている使用人達は俺のことを何だと思っている? 「ああ、よろしく頼む」 執事に背を向けると、俺は自分の部屋を目指した。 背後に指すような視線を感じながら――
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