空っぽのわたしと歌好きの神様

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 10年前も8歳と10歳の男の子がひとりずつ選ばれていた。そんな時、たまたま8歳の私が帰省しており、祖母や近隣住民に頼まれて舞台に上がったのだ。歌は短く簡単なものだったから、すぐに覚えられた記憶がある。 「……歌うくらいならいいけど」 「あら、そう?」 「ちょっと、美音」 「大丈夫だよ。仕事じゃないし。大丈夫」 「美音ちゃんの歌声が聴けるなら、嬉しいねぇ……」  ニコニコと笑いながら、祖母はすーっと目を閉じてそのまま寝息を立て始めた。最近は起きているのも辛いようで眠っている時間が長い。  これが、祖母の最期の願いになるかもしれない。そんな寂しい気持ちを抱きながら母と共に寝室を出る。 「その歌い手ってどうやったらできるの?」 「……今年はまだ決まってなくて、この前うちにも打診があったから……。引き受けますって言えば美音で決まると思うけど」 「けど?」 「大丈夫なの?」 「うん。大丈夫、私、歌えるから」  不安げな母から目を逸らし、自室へと入る。ドアの向こうから「じゃあ村長さんに連絡するわね」という母の声に返事もせずベッドに寝転んだ。
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