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06_どうです? マテマテいいやつでしょう?
渚に代わって黒板の前に立つ。チョークを手に取り鼻歌だ。
カツカツという板書の音に、おれのハミングがまざる。
「仁多、なんでお前までレゲエ?」とマテマテが笑う。
「エコロケーションみたいなもんです。イルカとかが使うやつ。歌うことで存在を示して、つまり、黒板に集中できるんです」
答えながらチョークを進める。
必死で書いて書いて書いて──。
「はい、正解」とマテマテがおれへ拍手をする。
そこに立ちあがったのは標津だった。
「くっそッ」
標津は毒つくと、マテマテから当てられてもいないのに勝手に次の問題の解答を黒板へ書いていく。しかもやつも鼻歌だ。それもレゲエだ。
それに勇気づけられたのか、渚もチョークを手に取る。
おれと標津が書いた解答の脇へ、第三問目の解答を書いていく。鼻歌まじりだ。やっぱりレゲエ。元気がでてくるメロディ。カツカツと板書する音までリズミカルだ。
「はいはい、正解」とマテマテは標津と渚へ拍手する。
「お前ら、数学を愛しすぎだから」とマテマテが笑って「で? なんでレゲエ?」と続けた。
「それに、まあ、わかった。エコロケーションとはちょっと意味が違う気がするけどさ。アレだろ? 要は、歌うことで無駄な力を抜いてより集中できるってことだろう?」
ハッとおれと渚、それに標津までマテマテへ顔を向ける。そして声を揃える。
「そうです。すごい。そういうことがいいたかった。どうしてわかったんですか?」
「僕は教師だっつうの」
マテマテは泣きそうな顔をする。それから穏やかな口調にかわる。
「まあ、入試のときに歌っているのは問題だけど、緊張する場面で平常心を保つトレーニングってことなら、僕の授業では歌ってもいいよ」
さすがマテマテ。話がわかる!
ありがとうございますっ、とおれたちはこれまた声を揃えた。
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