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07_ジュニアたちのレゲエライフ
放課後だ。
おれは隣の席へ顔を向ける。
「標津、お前、レゲエが好きなのな」
「親が好きで小さいころから聞かされてきた」
「お前もかよ」
「ボブ様とか最高でしょ」
「──ボブ様」と噴き出したのは前の席に残っていた渚だ。
「なんだよ」と標津は渚へ声を尖らす。
「ううん、ボブ様って最高だよね」
まあな、とほほ笑む標津を見て、なんだよ、とおれこそ胸で続けた。
なんだか二人、いい感じでしょ。冗談じゃないよ。これじゃあおれはただの道化でしょ。
そう焦ったときだ。
「仁多くん」と渚がおれを見た。
「さっきはありがとう。──嬉しかった」
真剣な目だ。あ、とおれも姿勢を正す。
「……マテマテがいいやつでよかったよね」
「うん」
不意に標津が「じゃあな」と立ちあがった。
「渚、この前は騒ぎにして悪かったな」
「……うん」
そのまま標津はカバンを手に出ていこうとする。
そのその手を、おれは咄嗟につかんだ。
「なんだよ」
「逃げんの?」
……なんでおれはこんなことをいってんの?
「だって、お前ら、下の名前で呼び合っているんでしょ。それって」
「同中だったからで」
「それだけ?」
標津が言葉に詰まる。それから標津は大きく顔をしかめる。
「はああ……お前、おせっかい」
「だけど」
「いいんだよ」
「標津」
ああもう、と標津は顔を歪めておれへ小声で告げた。
「……俺はもう、振られているんだよ」
「え」
「ほかに好きなやつがいるんだってさ」
手の力が抜ける。標津は薄く笑っておれの手を払い、おれの頭を小突いてから教室を出ていった。
えっと……えっと?
渚へ顔を向ける。うつむいていた。耳の先が真っ赤だ。
へ? えっと? それって?
……鼻歌が聞こえた。渚からだ。メロディだけだけど、知っている楽曲。ボブ様が「立ちあがれ」って繰り返すレゲエソング。起きあがれ、立ちあがれ。
だって実は、おれの親もレゲエファン。子守歌みたいにレゲエを聴いて育ってきたんだ。
音が途切れる。渚が大きく息を吸う。
そしておれの目を真っすぐに見る。
「好きです」
イルカのホイッスル音が耳で鳴り響いた。
(了)
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