105人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、どういうつもりだよ。別れるって」
チェーンがかかったままの状態だから、そんなに開いていないドア越しで、尚吾は声を潜めて怒鳴っている。
大声なら近所迷惑になるから、それくらいなら良しとする。
「メッセージの通り、別れる。そのままの意味だけど?」
僕はお前は何を言っているんだ?とキョトンとしながら、冷静な声で応える。
「何 勝手な事言ってんだよ?俺は別れないからな!」
僕のニヤケていただろう顔が、一瞬で真顔になってしまった。
スゥーと息を吸う。
そして一気に捲し立ててやった。
「勝手?そう?じゃあ、尚吾はなんだ?今日の約束を勝手にナシにして、女の腰に手を充てて、ニヤニヤしながら人目を憚らずキスをしていたのは誰だ?女とイチャイチャしていた理由は?キスしていた理由は?簡単に答えろ」
僕も声を抑えて捲し立てた。
「なっ?!」
尚吾はヒュッと息を飲む音を立て、驚いたように固まっている。
「なっ?!じゃないよ。何絶句してんの?答えになってないよね」
「俺が好きなのは南海なんだ!あれは遊びで…っ」
「僕はね、恋人以外と遊びでキスはしない」
「……ごめんなさい」
ボソッと謝って下を向いた。
「尚吾、正直に言って?
他の人ともセックスしたでしょ?観念しなよ?」
「―――っ!」
尚吾は顔を反射的に上げたのだろう。
一瞬だけ何かを言い淀み、そしてその時、目が泳いでいることに僕は気が付き、僕は悟った。
尚吾が嘘をつく時の癖だから。
でも敢えて黙っておく。
長い沈黙が続く―――…
最初のコメントを投稿しよう!