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休日の午後。
僕は買い物の帰りバス停で、ふと顔をスマホから通り向かいのカフェに目を向けた。
そこを見覚えのある男が女の腰を抱きピッタリとくっついて歩いている。
寄り添って歩く2人は、端から見たら仲の良い恋人同士にしか見えるだろう。
二人は人目を憚らず軽くキスをしながら笑い合う。
暫く僕は視線を逸らす事が出来なかった。
男はスラリと背が高く、髪の色はライトベージュ、少し長くウェーブがかかって、日本人にしては彫りが深く甘い顔立ち。
人違いじゃない…。間違いなく尚吾(しょうご)だ。
紛れもなくあれは僕の恋人の尚吾だ。
スマホをタップし、朝に受信したメッセージを見直す。
『悪い!急にバイトが入った。今日の約束なしで!ごめん』
うそつき―――…
僕は溜め息を1つ付いて内心 悪態を付く。
何がバイトだコノヤロウ。それがバイトなのか?ママ活かよ?笑わせるな。
同じ大学のいつもお前の周りに居る女の1人じゃないか。
モテる男だから仕方ないと、何も言わずにいたのが間違いだったのか。
それとも、やっぱり女の方がいいのか…。
「尚吾、お前から迫って来たのにな…」
ポツリと言葉が口から漏れた。
僕に飽きたのなら、言ってくれたら良かったのに。
別れたかったのなら、言ってくれたら良かったのに。
バスが来た。
僕は2人の反対側に向かうバスに乗り込む。
恋人の浮気を見てショックを受けている割りには、怒りだとか、涙も出やしない。
家にある荷物を早く纏めないとな…。
そんなことを窓の景色を視界に入れながら、ボンヤリと考えていた。
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