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左手でペグを回しながら右手に持った愛用のティアドロップ型ピックで弦を弾くと、キリキリと音を立てて弦が張り詰めていく。
徐々にテンションが掛かり始めた弦からは、ペグを回す動作に合わせて高く鋭い音が響いてくる。
毎回の事だが、適正な音程に近づいていく、この感覚が気持ちいい。
薄暗いステージの上では足元のチューナーのLEDライトでチューニング出来るから便利だ。
一番太い六弦から順に一番細い一弦まで。
各弦の音が綺麗に揃うとやることがある。
ルーティンのDのコードを鳴らすことだ。
やらなきゃ演奏でミスをするというほどのジンクスではないが、俺はDのコードの響きが好きで気分が上がる。
だからか、俺が作る曲はキーがDのものが多い。
チューニングに集中していた俺の意識は周囲に向けられる。
目の前の緞帳の向こうにはたくさんの観客がいることが、漏れ聞こえるざわめきの大きさで分かる。
天井を仰ぎ見て、ふーっと息を吐く。
ミュージシャン憧れの聖地、武道館。
やっとここまで来た。
一年前には、まさかこんな場所に立てるなんて思ってもいなかった。
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