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階段が崩れた。
みんなが順番に、着々と上がっていくはずだった階段は、今年、あっけなく崩れ落ちた。
学びの時期を終えた後、自立するには、最後にあの階段を上らなければいけない。それが、僕たちの世界の決まりだった。
階段は、外には見えない。自分の住む地域に一つ、その階段に続く入り口があって、そこから階段に向かう。
入り口はただの木の扉で、その扉は一応、コンクリートで固められた白い建物に続いている。しかし、入ると外観に見えていた建物とは全く違う、ゴールの見えない長い階段が待っているのだ。
その階段がどんな形のものなのかは、上った者にしかわからない。
噂には、外観と同じような、コンクリートで作られた無機質な階段だったとか、古いアパートについているような、上ると音がカンカン鳴る錆びた鉄骨階段だったとか、はたまた宙に浮いた階段だったとか、そういう風に聞く。
長さも、いつまで経っても上り切れなかったという人もいれば、思ったより短く、上り切るのは簡単だったという人もいる。
つまり、人によって違うのである。全く同じ階段を上ったものはいないと言われている。
そんな、正体がよくわからない階段は、僕らにとって、大人になるために上らなければならない階段だった。
なぜか、と言われると、それもよくわからない。
たった一人で上らなければならないからだろうか。上り切るまで、終わりが見えないからだろうか。
わからないけれど、みんな上る。
上れば、大人として周りに認められ、晴れて自立できるからだ。
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