僕の階段はあの星に続いている

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「えっ? 階段、もう元に戻ったの?」  階段が崩れてから一か月程が経った頃、階段が上れるようになったことを報せる郵便物が届いた。  できることがなく、趣味に明け暮れていた僕は、母にそれを手渡されて驚いてしまった。 「うーん、そうじゃないみたいだけど、もう上り始めることはできるって」  中を確認すると、完全に修理が終わったわけではないが、上れるくらいまでは回復した、というようなことが書かれていた。そのせいで、以前と勝手が変わったところもあるのだそうだ。  一応、SNSで情報を辿ってみる。今年階段を上る人は大変なんだろうな、なんて話が多く目に入った。難しくなっているらしいぞ、とかいう、確かでない噂が既に駆け巡っている。 「みんなもう行き始めてるみたいだし、さくっと行ってきなさいよ」 「……うん。そうだね」  母の軽い言い方に、僕も明るく返事をした。母は、僕をあまり心配していないようだった。    途中まで上っていた者は、申請すれば途中から再開することができるのだそうだ。途中からなら、僕も上り切れるだろうか。週末にでも、また入り口に向かおうか。  そんな風に考えつつ、行きたくないな、なんて思ってしまう自分もいた。  正直、面倒だった。勇気もなかった。難しくなったなんて言われているのだ。大変に決まっている。怖かった。  けれど結局は、最初から、何にもわからなかったのだ。手探りで進んでいたのは、階段が崩れる前から変わらない。そうも思う。どっちにしろ、そこまで身構えるほど、前とほとんど変わりはしないのだろう。  だけど……。  一人だ。なぜか、そう思った。
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