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キャロルは己の身に起きたことが信じられず、混乱のまま叫んだ。
「ピイィィ!」
しかし漏れ出たのはひとの言葉ではなく、動転して動かした手によって体が宙へ浮いたものだから、さらなる混乱を極めた。
(なにこれ、どうなってるのー!?)
誰かの悲鳴が聞こえたが、正直なところ悲鳴をあげたいのはキャロルのほうである。なにしろ周囲の人間が巨大化しており、状況がまったくわからない。公爵令嬢の傍に控えていた従者が不可解な言葉を紡ぎながら右の人差し指を突きつけたとき、目前が光り、体が軽くなっていた。
自分は死んでしまったのだろうか。
そう考えたキャロルの耳に飛び込んできたのは、衝撃の言葉。
「なんだ、この茶色い小鳥は、摘まみ出せ。あの令嬢はどうなった」
「申し訳ございません。わたくしはフレードリッヒ殿下とカミラ・ランサ公爵令嬢の仲を引き裂くよう、あの姉に強要されていたのでございます」
「メルカナ、そなたは」
「姉の悪巧みとはいえ、男爵令嬢の身で殿下を愛してしまった愚かなわたくしを、どうかお許しくださいませ」
「なんといじらしい」
義妹と第一王子がなにやら見つめ合って盛り上がっているが、キャロルはそれどころではない。王家の近衛らしい男が近づいてくるなか、夜会がおこなわれている大広間から逃げ出す。
自分は小鳥の姿になってしまったらしい。
(ひとまず、撤退よ!)
本能で翼をはためかせ、小鳥は夜空に躍り出たのであった。
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