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「おはよう小鳥ちゃん」
「ピピ」
「キミは意外と獰猛だよね、共食いが気にならないんだからさ」
「ピー」
ゆでた鳥ささみを突つくキャロルを見ながらそんなことを言うのは、キャロルを保護してくれたひと。あの夜、フラフラと彷徨いながら辿りついた塔に住んでいる、魔法使いのイグナシオ・エルヴァスティ。長く伸びた前髪で見えにくいが、紫色という不思議な色の瞳をしている麗しい十九歳の青年だ。
新鮮な水を飲みながら、キャロルは考える。
これからどうしようかしら。
そもそもキャロル・ベッカーは、十六歳の平凡な男爵令嬢であった。ほんのすこし周囲と違っているのは、同じ年で腹違いの妹がいるという点。
貴族の当主が妻以外の女性と子を成すことは少なくないが、双方の子どもが数日違いで生まれてくるのはかなり稀だろう。母親は愛妾ではなく、ただのメイドなのだから余計に。
産後の肥立ちが悪く、やがて儚くなった母。庇護をなくしたが、父は娘を外に出すことなく男爵家の娘として育ててくれた。といっても家に置いてくれただけで、特に可愛がってもらった記憶はない。キャロルを育ててくれたのは、母の同僚たち。
義母や義妹はキャロルを虐げて使用人のように扱ったけれど、使用人はキャロルの味方だったのでなんの問題もなく、楽しく過ごしてこられたのは幸運だと思う。高慢な義母は使用人の受けが非常に悪かったこともあり、連帯感はより高まった。
栗色の髪という地味なキャロルと違い、ピンクブロンドの髪をした義妹メルカナは、共に学校へ通うようになってから、ことあるごとにキャロルを悪者に仕立て上げるようになった。可哀そうな自分を演出し、高位貴族の男性に好かれようとするのは、木っ端貴族である男爵令嬢としてはわからなくはない。だが、義妹が狙いを定めてすり寄った相手が悪かった。
フレードリッヒ・ファルフリーエ、十八歳。
国が定めた婚約者を持つ、我が国の第一王子殿下、そのひとである。
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