くらくら

6/17
前へ
/79ページ
次へ
「咲、料理上手いから、兄貴に作って持ってけばいいじゃん」 菖くんが手に持ったお皿に視線を落とした。 本日の献立は一咲特製、明太子クリームパスタにトマトと枝豆のサラダ、パンプキンスープ。 勉強もスポーツもイマイチな私が、唯一得意なことがあるとすれば、料理だ。作るのも食べるのも好きである。 「オレの言ってること、わかった?」更に投げかけられた私は、首を縦に振った。 「あやちゃん、喜んでくれるかな」 「すげー喜ぶんじゃね。勉強忙しいから、まともな飯食ってねえはずだよ。てか、常に食ってないと思うわ」 「(そうなの?菖くん、あやちゃんには厳しいんだ)」 私の中で"いつか"がことんと落ちてきて、ゆっくり溶ける。 恋の始まりは簡単なのに、恋を進めることはむずかしい。 夜空に煌めく星を掬うのと同じで、手を伸ばせば伸ばすほど、遠いところにいっちゃうから。 「兄貴のID教えようか?」 「知りたい、けど」 「ん?」 「私から聞きたいから大丈夫だよ」 菖くんの、明るいベージュ髪に映えるブラウン色の瞳が、深い影を落とした。 「ふーん。がんば」 料理を作ってお届けする他に《連絡先を聞くこと》が新たなミッションとして付与された。 うん、頑張ろう。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加