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「咲、料理上手いから、兄貴に作って持ってけばいいじゃん」
菖くんが手に持ったお皿に視線を落とした。
本日の献立は一咲特製、明太子クリームパスタにトマトと枝豆のサラダ、パンプキンスープ。
勉強もスポーツもイマイチな私が、唯一得意なことがあるとすれば、料理だ。作るのも食べるのも好きである。
「オレの言ってること、わかった?」更に投げかけられた私は、首を縦に振った。
「あやちゃん、喜んでくれるかな」
「すげー喜ぶんじゃね。勉強忙しいから、まともな飯食ってねえはずだよ。てか、常に食ってないと思うわ」
「(そうなの?菖くん、あやちゃんには厳しいんだ)」
私の中で"いつか"がことんと落ちてきて、ゆっくり溶ける。
恋の始まりは簡単なのに、恋を進めることはむずかしい。
夜空に煌めく星を掬うのと同じで、手を伸ばせば伸ばすほど、遠いところにいっちゃうから。
「兄貴のID教えようか?」
「知りたい、けど」
「ん?」
「私から聞きたいから大丈夫だよ」
菖くんの、明るいベージュ髪に映えるブラウン色の瞳が、深い影を落とした。
「ふーん。がんば」
料理を作ってお届けする他に《連絡先を聞くこと》が新たなミッションとして付与された。
うん、頑張ろう。
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