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魔法戦
「やれやれ、交渉決裂か。ま、それでいいさ。ここからは当初の予定通りだ」
隠れていた石柱の陰からインティが姿を現した。
「ヘルメースはお前を取り込んだ方が話が早いと言ってきたが、僕はそんな気にはなれなくてね。ほら、この壊れた神殿を見るがいい。僕らの先祖が長い時間をかけて築いたものをお前たちが破壊したんだ。それをどうやってチャラにできる?」
「んむ? もしや貴様は我々が血眼で探している『ワカの息子』のインティか。だとすれば貴様の首を差し出せば今度こそ我が出世の道が開けるというもの!」
エンゲルスがポケットからジャラリと音をさせながら数枚のコインを取り出した。
脱ぎ捨てた上着の下には、血液アンプルをズラリと嵌めたベルトが巻かれている。
「私もインティ様と同意見です」
チャスカも表に出てくる。
「インディルカ国民のあなたに対する怨嗟の声は尋常ではない。魔法に使う血抜きによる殺害、採掘場での過酷な重労働、一方的な資産の取り上げ……悪行を並べたらキリがない。もはや死に至らしめる以外の道はなし」
更にはズン、と足音を立ててサンタァが前に出てきた。
「ふむ、お前は【10】のコインを持ってるそうだな。貴様なぞに興味はないが、そのコインはこっちに頂こうか」
「ぬぬ、その全身をコインで固めた昆人! さては貴様、オルアンダ戦線で『コインの死神』と呼ばれたサンタァ・シンクラータか」
エレンスゲがじり……と一歩引いた。明らかな警戒。
「ほう、儂を知っておったか。だが実力の話をするならば、ここに勢揃いの4名は何れも【QUEEN】以上の大魔導士よ。貴様ごときゴミクズに勝機なぞない」
断言するサンタァにエンゲルスはそれでも「愚かな」と、不敵な笑みを浮かべた。
「魔力がデカいからと言って、それがどうしたというのだ。使い勝手の悪い強い魔力は邪魔なだけよ。戦いとは強さのみで決まるものではない。己の受け入れた弱さをどう活かすかなのだよ!」
雄叫びをあげるエンゲルスがコインをバラバラっと宙に放り投げる。
「見るがいい! 【深緑の鎧】……【2】!」
エンゲルスの詠唱とともに、空中のコインがふわりと浮かび上がる。
「ん?!」
眉間にシワを寄せ、チャスカが身構えた。
「ふふん! 弱いコインには魔力を節約できるという利点もあってな。そして、獣人には獣人の戦い方があるのだ」
次の瞬間、エンゲルスの姿がふっ……と消えた。
「高速機動だ! 背後を取らせるな!」
チャスカが大声で怒鳴る。
「ふむ、流石は狐属の獣人ですね。コインの力を借りているとはいえ、それほどまでに素早く切り返すターンができるとは」
ヘルメースがふふ、と微笑んだ。夜中ではあるし見えてはいないのだろうが『何処にいるのか』は掴んでいるようだ。
「何々? 何が起きているの?!」
一番うしろの物陰に身を隠しながら、奈々音が目の前で起きている信じられない戦いに目を丸くする。
「コインが……宙に浮いているコインが跳ねている!」
よく見ているとインティたち4名の周りを取り囲むようにバラバラに浮かんでいるコインが時折パン! と跳ねる。
「そうか、超高速で飛び回っているんだ!」
エンゲルスはその超人的な跳躍力にコインの魔力を借りて自分の居場所を相手から分からなくさせる戦法を採っているのだ。
そして。
「ふふ……そろそろ認識の追従が難しくなってきた頃合いじゃないのか?」
不気味な声とともに稲光にも似た閃光が夜の宙を疾走っていく。
「【星黄の戦斧】……【3】!」
「ふん……!」
その一撃はインティを狙ったものらしかったが、彼にとってその程度の『目眩まし』は何事もなく躱せるレベルだったようだ。
「大層な御託を並べてその程度かい? やるなら全力を出しておかないとあの世に行ってから後悔しても遅いよ」
「ほざけ、小僧めが!」
エンゲルスの怒声が響く。
「試運転は終わりだ。全員まとめて一気に消し去ってくれる!」
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