魔法戦

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「魔力の節約は止めだ! 一気に片付けてくれる。【深緑の鎧(グラビティ)】……【4】!」  バン! と跳ねるコインの勢いが段違いに強くなる。突っ切る風切音が高音になっていく。 「はは! やっと本気を出してきたか」  サンタァがずいと前に出てきた。 「で、次はどんな手品を見せてくれるのだ?」 「おうとも! 貴様ら愚物に『冥土の土産』を見せてやろうぞ! 見物料は貴様らの命だ」  次の瞬間、いつの間にか周囲に散っていた星黄(スターライツ)のコインがブン……と不気味な音を立てて一斉に光り輝き出した。 「喰らえ、全方位一斉雷撃! 【星黄の戦斧(エレクトティク・フォース)】……【3】50!!」 「こ、これは!」  奈々音の前に広がった光景はまさに稲妻の乱舞だった。  ありとあらゆる方向から電撃が襲ってくる。それもほとんど時間差ゼロで。 「ふははは! 電撃の針に貫かれて死ぬがいい!」 「あ……もしかしてこれは」  ふと、奈々音の心に閃きが走った。 「エレンスゲはスペルーニャ人だから真紅(クリムゾン)のコインを多く持っているはず。なのにあえて星黄(スターライツ)を使う理由があるとしたら」  高校の授業で物理の先生が言っていたのをふと思い出す。 「人体は意外と電気に脆い。それは神経が微弱な電気で信号をやりとりしているからなんだ。ここに横から邪魔が入ると弱い力でも十分に効く」……と。 「だから星黄(スターライツ)の【3】なんだ。あえて弱い力で連弾を可能にして『僅かな隙』を突く作戦……!」  大量の稲光が辺りを照らし、日中よりも明るく眩しく光輝き、インティたちがどうなってるのか全く見えない。 「さて、丸焦げになった姿を拝んでくれようか」  エンゲルスが地面に降り立った。肩で大きく息をしているのがわかる。流石にかなり消耗しているようにも窺えるが。 「『光のショー』はもう終わりか? 派手なだけで大して面白いものでもなかったが」  最初にずいと姿を現したのはサンタァだった。 「不本意にも【2】を何枚か割られたが、儂の全身コインガードを突き破るにはあまりに弱力というものだろう」  そして。 「避けるのが面倒臭かったですが、運動不足解消にはなったかも知れませんね」  チャスカも平然としていた。 「深緑(エメラーダ)の【3】で十分にガードできたし、動く必要もなかったかな」  インティも相変わらず淡々としたまま。そして。 「神蒼(ディブルー)の【2】を発動させて、私に向かってきた雷撃は全て私の魔力に還元させて貰いました。できればもう少し頂ければ更に嬉しかったと思いますが」  ヘルメースが胸元の蒼いコインをかざして見せた。 「く……っ! 馬鹿な!」  エンゲルスは明らかに動揺している。 「さて、大人しく【10】を差し出せ。さすればせめて痛みを感じる間もなく即死で済ませてやるぞ?」  詰め寄るサンタァにエンゲルスは「黙れ!」と怒鳴った。 「かくなる上は手段を選ばず! 仮に貴様ら相手に勝てずとも、この地が貴様らインディルカ人にとって大事であるならばまるごと吹き飛ばしてくれようぞ!」  吠えるエンゲルスが空中高く飛び上がる。そして懐からコインを引っ張り出してきた。そう、真紅(クリムゾン)の【10】。 「ははは! コインのガードにも限界があろう! 【10】の威力全てをガードはできまい? せいぜいワシに逆らった罪を思い知るがいい」  腰に下げられたアンプルの残り全てを握りつぶし、渦を巻く血液に己の両手から生み出される光球を一体化させていく。 「まずい! とりあえず防御だ! 儂の背後へ回れ!」  サンタァが前面に出る。 「え?! え?!」  奈々音は一人神殿の背後へ隠れたまま。もしもサンタァの防御効果が奈々音のところまで及ばなかったとしたら……。ぞっとして足がすくんだときだった。 「こっち! 早くくるんだ!」  俊足を飛ばしてきたのはインティだった。 「喰らうがいい!【真紅の槍(ウェイク・フォース)】……」 「インティ君!」  抱えられ、再びサンタァの背後へと舞い戻る。時間差で言うなら、0.1秒もあったか、なかったか。 「……【10】!」  エンゲルスの呪文詠唱が終わるとともに、辺りは爆炎に包まれた。
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