魔法修行

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魔法修行

 ロカの合流は、それでも大きな意味があった。彼が前線の魔法兵団をとりまとめることでヘルメースとチャスカが情報収集と作戦の立案に専念できるようになったからだ  ただの小さなレジスタンスは、いよいよもって『戦力』になりつつある。  その一方で。 「そう、呼吸を意識して大きくゆっくりと。吸った空気が肺に届くのをイメージするようにして」  インティの指導による奈々音の魔法修業が少しづつ始まっていた。まずは自分の体内を駆け巡っているという膨大な量のプルシュオンを感じることから。 「プルシュオンはこっちが意識して見つけてやらない限り、その姿を現すことはない。その眼には見えない小さな粒ひとつひとつを探してあげるんだ」  それは途方もない作業。  大抵の場合で『僅かに意識できる』ことはあっても、魔導士と呼ばれる魔法戦が可能なほどのプルシュオンを意識できる者は稀だという。  【KING】たるインティのように全身を巡るプルシュオンのほぼ全てを意識できる者ともなれば、それは『神に選ばれし者』の領域。  現時点でそれが可能なのはインティを除いてはスペルーニャ皇帝のグリフォン、アテナ国のヘーラ教皇、そしてオルアンダのバルト総督の国家元首3名のみという。まさに【KING】だ。 「ふぇぇ」  途中休憩を入れ、奈々音がゴロリと横になる。 「マンツーマンでこれだけ必死にやって、やっと少しだけ『分かったような』感じだからなぁ。先は遠そうだよ」  思えばこれほど真剣味を帯びて何かをするのは勉強や部活、趣味でもなかったんじゃないかと思う。 「いや、それでも筋はかなりいいと思う」  横に座るインティがそっと奈々音の横顔に視線を落とす。 「僕の手助けがあるにせよ、初日からここまでこれる人間は中々いない。やはり【JOKER】が奈々音の手元にあるのは意味があるんだと思う」   「……こ、この、プルシュオンてのがあれだけ強い魔力の原動力になるんだよね?」  褒められたのが何だか照れくさくて奈々音が話題を変えると。 「いえ、残念ながらプルシュオン自体にそこまでの力はありません」  無粋に割って入ってきたのはヘルメースだった。 「……」  奈々音がちょっと嫌そうな顔をするが、インティは構わなさそうな感じだった。多分、慣れているんだろうと奈々音は察した。 「重要なのは触媒となる『血液』なんです。どういう理屈なのか詳しい原理は知りませんが、プルシュオンは血液の成分を素粒子レベルで分解する能力があるようです」  堂々と奈々音の隣に座り込むヘルメースはアテナからによって派遣されているのだ。インティとその周辺の動向について「知りませんでした」では済まされない責任があるのだろう。 「インディルカ人の血液には莫大なエネルギーが隠れていて、素粒子分解が起きたときにそれが放出されるのです。あとはその奔流するエネルギーをプルシュオンでコインに叩きつける。するとそのコイン特有の波長によって電気になったり火炎を生み出す力になるのです」  そう言えば何処かで聞いた気がする。奈々音が記憶の片隅から先生の書いた板書を思いだす。  E=mc2    物理学史上最も有名で完璧な一文。物質がエネルギーに置き換わることを証明した公式。  血液にはヘモグロビンがあって、液化した鉄分が含まれる。もしかしたらプルシュオンはその鉄を核分裂させる力があるとか? だったらあの莫大な力にも納得ができるというものではあるが。 「サンタァさんのような昆人類やスペルーニャの獣人類、私のような植人類にもプルシュオンはありますから『血液』とコインさえあれば魔力を使うことができます。だから」  ヘルメースの声色が一段低くなったように聞こえた。それはきっと「浮かれている場合ではないですよ」という注意喚起もあったのだろう。 「スペルーニャは簡単にこのインディルカの地と人間を手放そうとはしないでしょう。必ず、劣勢を巻き返しにやってきます。くれぐれも油断されませぬよう」
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