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翌朝、4人と奈々音はカナブンのいた高原をあとにして下の村へと向かった。サンタァのいう通り足元は岩だらけで、とても夜中に歩けるようなものではなかった。
「うわわ! おっとっと!」
現世ではバスケットボール部でそれなりに活躍していたから脚力にはそれなりに自信がある方だと思っていたが、トレイルはどうも勝手が違う。他の4人は何事もないように先行しているが。
山を下り始めて2時間ほどしただろうか。小川をジャブジャブと突っ切ったり藪漕ぎをししながらどうにか人家が立ち並ぶ村へとやってきた。
そして、一軒の大きな家へと入っていく。どうやら村長の家らしい。
「頼まれていたカナブンを狩ってきた」
インティが家の奥から出てきた顔役に仏頂面でサンタァの担ぐ翅鞘を指し示す。
「おお! これは間違いなく!」
老いた村長が目を丸くした。
「それにしても、ここまで巨大なカナブンだったとは! 畑が荒れるはずですわ。それにバッタや蟻もすっかり姿を消しておりましたんで」
「カナブン狩りは世話になっている礼だからいいが、翅鞘は買って貰いたい」
サンタァが担いでいるキラキラ輝く翅鞘を土間へ下ろした。
「街の仲買さんまで持っていくのも危険なので、それなりには頂きたいですけども」
チェスカが睨みを利かして釘を刺すと。
「ええ、分かってますとも! こちらで売って村の資金にしますんで。特別に【真紅】の【3】を2枚と……」
「それは要らない。【真紅】は間に合っている」
サンタァが不服そうに声を上げた。
「それより、【神蒼】はないか? それだったら【2】でもいい。それと【真紅】以外で何か1枚となら交換できる」
「無いことも無いんですが……」
村長が顔を曇らせた。
「この村で【神蒼】は1枚しかないんです。なので、ちょっと」
「ねぇ、ちょっと」
奈々音がヘルメースの袖口をツンツンと引っ張った。
「よく分からないんだけど、コインって種類によっても価値が変わるの? 数字の大きい方が何となく『価値がありそう』っては分かるけど」
「そうですね。しかしそれは地域によっても異なります」
ヘルメースは今日も目を閉じたままだ。
「私めの故郷であるアテナでは【神蒼】は決して珍しくありません。むしろスペルーニャ帝国に広まっている【真紅】の方が入手し難くて価値が高いですね」
「へー? 色々なんだ。他にもカラーがあるの? コインって」
「ええ、あとはここインディルカの国で量の多い【深緑】と、サンタァさんの母国であるオルアンダで多く出回っている【星黄】の、4色です」
村長とサンタァの交渉は難航していたが、結局は【星黄】の【3】と【深緑】の【6】の各1枚で決着をみたようだった。
「【星黄】が【3】なら、【深緑】は【6】じゃなくて【7】あたりでもよかった気がしますけど」
村長を家を出てから、チェスカがやや不服そうに口を尖らせるが。
「いや、手持ちにある【深緑】の【6】はもう2回使ったからな。『残弾1』だと心もとないでのぉ」
サンタァとしてはそれで納得のようである。
「ヘルメースさん、『残弾』って何です?」
何でも優しく答えくれるヘルメースは奈々音にとって非常に助かる。本当は年齢的に近そうなインティに尋ねたいのだが、ああまで素っ気ないと取り付く島がない。
「残弾、ですか? ああ……コインはどれも無制限に使えるわけじゃないんです」
何処へ向かっているのか知らないが、一行は再び山頂方向へと向かって山道を歩いている。
「コインの使用限度回数は【数字】の大きさに反比例します。極めて高い能力を使える【ACE】などの固有名称なぞはどれも『1回限り』ですし」
「へぇ……難しいもんなんですね」
強い力を掛ければ早くダメになる、分からない理論ではないが。
「そうです。ちなみに【6】だと、3回使ったら割れて終わりなんです。【深緑】の【6】はここ最近、2回使ったと思うのでちょっと気がかりではありました。なのでいい取引だったのではと思いますけどね」
ヘルメースは特に感情を表すことなく、そう淡々と語ったが。
奈々音はこの時点で気付いていた。
『この人たち、ただの狩人集団ではない』と。もっとこう別の目的のために動いているのは間違いない。そのためにより多くのコインを必要としているとみて間違いあるまい。それもなるべく秘密裏に。
では、『それ』は何か。すぐに思いつく答えはひとつしかなかった。
『革命』だ。
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