思惑

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 インティたちがカインの港が見下ろせる山頂にやってきたのは、それから3日後の夜だった。  集まったのは奈々音たちだけではなかった。チェスカと密かに連絡を取り合っていたかつての『インディルカ魔法兵団』の生き残り5人が加わっている。 「チャスカ、船の数は分かるかい?」  インティが僅かな星灯りに浮かぶシルエットに目を凝らす。 「はい。6隻づつ2手に分かれていて、全部で12隻。片側の6隻ではこの時間でも荷積みをしているようですね」 「うー……何も見えないけど」  奈々音はじっと港を見つめるが、船らしきものがいることしか分からない。 「視力に関してチャスカさんの右に出る人はいませんからね」  ヘルメースもそこは信頼しているようだった」 「しかしチャスカ様」  元魔法兵団の男が不思議そうに尋ねた。 「我々が昼に確認した際、船は6隻だったと思いますが。残りは夜中に入港してきたのでしょうか?」 「残りの6隻とは『行き先が違う』からな」  少し苛ついたようにサンタァがふん! と鼻を鳴らした。 「なるほど」  ふふ……とヘルメースが軽く笑った。 「マデの出荷管理はインディルカでの行政長官である、エレンスゲの仕事。『本国には教えられない出荷』があるんでしょうなぁ、きっと」 「ええ! それって『横流し』ってことですか?! しかも、半数ってヤバくないです?」  驚いたように奈々音が声をあげる。 「だとすれば納得のいくこともあります」  さっきの男が頷いた。 「本来であれば警備を固めるべきマデの出荷ですが、それを行うスペルーニャ海軍のインディルカ駐屯部隊隊長アルテミスの姿がありません。どうやら地方へ遠征しているようで」 「アルテミスは生粋の軍人だと聞くからな。賄賂が通用しない相手は遠ざけたか。ちょうどいい、その間に仕事を……」 「『夜中にやってきた6隻』については逃がしてやってもらうぞ?」  突然、サンタァが割って入った。 「……仕方ないね。気に入らないことは気に入らないけど、その分の見返りは貰っているわけだし」  インティの一言に、何か言いたそうだったチャスカも黙った。つまり、その6隻の行き先はサンタァの出身地であるオルアンダなのだろうと奈々音は理解した。『盗掘』されたマデを買い取る代わりに、サンタァを寄越してると。  それもまた政治というものなのだろう。 「うーむ、『横流し』か。それはちょっと作戦変更したいですね」  ヘルメースが少し悪そうな笑みを浮かべる。 「当初は威嚇も兼ねて派手目に行く予定でしたが、どうせ半分だけ沈めればいいとなると少数精鋭でさっさと仕事をして逃げた方が賢いというもの。その代わり、『二手に分かれる』としましょう」 「何を考えているか知らんが、私はインティ様と同じチームで行動するぞ」  チャスカが牽制を入れている。 「大丈夫。この夜中ではチャスカさんの夜目は絶対の武器ですから。なので、船を沈めるのはインティ様とチャスカさん、それとサンタァさんに任せます。あと、元魔法兵団の方を3人」  この時点で奈々音は嫌な予感がしていた。どう見ても自分が『戦力』としてカウントされている可能性があると。 「もう一方は私と元魔法兵団の方を2人。そして奈々音さんにもご協力を頂きましょう」 「え? 何処か潜入するの? いや、その、それってもしかして『万が一』が発生したら」  奈々音の声が恐怖に上ずる。これはゲームではないのだ。敵は殺傷能力のある武器を持っている。何かあればそれを遠慮なく使うだろう。 「万が一? はは、戦地に万が一なんてことはありえません。常にイチかバチかの勝負です。まあ『そのとき』には運がなかったと思って諦めてください」 「ぎぇぇ! そ、そんな!」  尻込みする奈々音にヘルメースはにっこりと優しく微笑みながら追撃をかけてきた。 「我々は『人殺しをしようしている』のです。であれば失敗すればこっちが失命するのは当然というものでしょう。それが摂理というものです」 「いや、摂理とか言われても!」  なおも尻込みする奈々音の背中からインティが「ヘルメースに着いていた方がいい」と声をかけてきた。 「まだその方が死なずに済む確率が高いからな」
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