<2・かんちがい。>

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「そ、その、俺の力はそんな大したもんじゃねえというか……。鶏やダチョウの卵くらいしか孵化させたことねえのに、そんな大役荷が重すぎるというか。それに……」  多分、王様は藁にも縋る気持ちというのだろう。それはわかる。しかし、正直ソフィアにも事情はあるのだ。  自分がこのまま王都にいるということはつまり、村へ戻れなくなるということ。村に戻れなければ畑仕事もできず、老いた両親も手伝っていた他の酪農家の人達も困ってしまうことになる。己が村において、それなりに貴重な働き手であるということはわかっているつもりなのだ。 「勿論、タダとは言わん」  そんなソフィアの心を察してか、王様は告げた。 「そなたの村には、国から援助を出そう。そなたの家族や村の者達が喰っていくには十分な金額をだ」 「そ、それはありがたいですけど、でも」 「金だけではなく、人的支援もしよう。我が軍の部隊を派遣し、支援を行う。わが軍には地方出身の、つまり農家の経験がある者もいる。素人の者も体は鍛えているから、力仕事には最適だろう。畑の管理も、手入れも、牛の世話などもすべてそやつらに手伝わせる。それでどうだ?」  そこまで言われたら、こちらもNOとは言えない。というか、正直一番心配だったのは村の人達が飢えてしまうこと、畑仕事の手が足りなくなることであったのだから。 「……わかりました」  ソフィアは不安を感じつつも頷いた。 「それで、王様は……俺に、どんな卵を孵して欲しいんだ?」 「……ここへ」  王様が合図すると、王様のすぐ隣に立っていた執政官らしき男がお辞儀をして、奥から何かワゴンのようなものを運んできた。  ワゴンの上には、ふわふわの紫色のクッションを乗せた籠がある。そのクッションの中央に、ちんまりと鎮座しているのは。 「……卵?」  真っ白な、卵。  それもガチョウの卵よりさらに一回り大きい卵である。 「これは、魔法の卵なのだ」  王様の隣で、お妃様が嗚咽を漏らしている。彼女の背中を撫でながら、王様は悲しそうに言ったのだった。 「実はこの王都の西の森に、魔女が住んでいてな。我が息子……長男のエリックが、その魔女の手によって卵に封印されてしまったのだ。今年で十六歳、勉強熱心で真面目で、次の王を任せるに相応しい器だったというのに」 「え、えええええ!?」  この卵の中に、まさか人間が入っているとな。ソフィアは困惑して、卵と王様を交互に見つめた。  しかも次の瞬間には。 「お願いします、ソフィアさん。私を助けてくださいませんか」 「qm0c5j「091v、5tーq、v1おにrvhwmj04wv!?」  思わずひっくり返った声が出てしまった。卵が喋った。中から、爽やかな若い青年の声が聞こえてきたのである。  まさか、本当にこの卵の中に、王子様がいるというのか。 「頼む、ソフィア!何日かけてもかまわない。その間、そなたの村へは万全の援助をしよう」  王様は、お妃様ともども深々と頭を下げてきたのだった。 「どうか、我が息子を、エリックを呪いから解き放ってはくれないだろうか!」
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