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「それなのに落とさなかった、殺さなかった。弟の王子様にも酷いことはしなかった。それはつまり、魔女がそこまで悪い人じゃないってことだと思うんだべさ。なあに、どうしてもブチギレて会話にならなそうだったらその時は、俺が王子様抱えて逃げるから安心すればええ。な?」
「ソフィア……」
沈黙する彼の殻を撫でて、ソフィアは告げた。
「親しい人間は、みんな俺のことソフィーて呼ぶだ。王子様も、そう呼んでくれると嬉しい。俺、王子様とは、ええ友達になれそうな気がするべさ」
王様に許可を貰って、二人は馬車を出して貰うことに。
森の奥の方の道は細く、馬で通ることは困難である。よって、途中からはトートバッグに卵を入れたソフィアが一人で歩くこととなった。一応護身用のナイフと短銃も持たされているが、そうそう必要になることはないだろう。相手のスキルは不安だが、油断しなければ逃げられる自信がソフィアにはあったのだ。
その森は、昼間であっても非常に暗いものだった。たまごの王子様を抱えて歩くソフィアに、エリックが告げる。
「危険かもしれないのに、どうしてソフィーは私のためにそこまでしてくださるのです?」
これが本心だ、と彼は言った。
「正直、私は……貴女に会うまでは疑っておりました。理由をつけて、私を孵化させず、だらだらと城で過ごすのではないかと。このお城にいれば、貴女は国賓としてずっともてなされ、綺麗な部屋に服、御馳走をいくらでも食べることができます。貴女が城にいる間父と母も援助を惜しまないでしょうから、貴女の家族だってひもじい思いをすることなどありません。それこそ、貴女が卑怯な真似をしてもなんらおかしくないと思ったのですが」
「そういう輩もいるかもしれねえな」
「それとも、さっさと解決して早く村に帰りたいとか?」
「帰りたい気持ちもねえわけじゃねえ。でも俺はそれ以上に……優しい人が報われねえ世界が、嫌なだけだ。そして俺にできることがあるのに、それをやらないで逃げる卑怯モンにはなりたくねえだけだ」
そうだ。
それは亡くなった両親の教えに反すること。
「俺は、俺のスキルを誇りに思う。父ちゃん母ちゃんが、俺のスキルは誰も傷つけねえもんだ、優しいおめえにぴったりだって褒めてくれたんだ。だから俺は自分の力で、みんなのことを助けてえ。死んだ父ちゃん母ちゃんに恥じない人間になりてえ。そういうの、あんたにもわかるっぺ?」
「……ああ、そうですね」
まるで噛みしめるように、エリック王子は告げたのだった。
「ああ本当に……本当にその通りだ」
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