<4・あいのうた。>

1/4
前へ
/15ページ
次へ

<4・あいのうた。>

 付き人(護衛もかねている)は何度も何度も“一人で大丈夫か?”とソフィアに尋ねてきた。  しかし、ソフィアとしてはどうしても一人(一応、卵の王子様は一緒だが)で行かなければいけない理由があったので断ったのだった。なんとなく、魔女が怒った理由に心当たりがあったがゆえに。 ――いい森だな。  すん、と鼻から息を深く吸い込んでソフィアは思った。空気が澄んでいる。若い草木の匂いに、少しばかり雨の匂いが混じっているような気がする。そういえば、昨日の夜は国全域で少し雨が降ったのではなかっただろうか。 ――王都から馬車でだいぶ走った。徒歩で町まで行き来するのはかなり大変そうだべ。だのに一人で森の奥に住んでる、ということは……。  それなりに歩いたが、魔女らしき姿は見えない。どうするんです?とバッグの中から声がした。ここからは、自分がエリック王子を守らなければいけない。ソフィアを大きく息を吸い込むと、大きな声で叫んだのだった。 「森の奥に住んでる、魔女さんとやらあああああ!俺、ソフィアっていうもんだ!あんたに卵にされちまった、王子様を元に戻すために来たんだあああああ!頼む、王子様は、本当に困ってらっしゃる。どうか、呪いを解いてやってくれねえだろか!!」  とりあえず用件。  が、案の定森の奥からは木々のざわめきが聞こえるばかり。昼のこの時間にこんだけ暗いならば、夕方や夜は人の顔なんて見えないだろう。 「あんたが、卵にしちまおうとしたこの人の弟の王子様は、あんたを見て驚いたんでねえ。そもそも、こんの暗い森の中……特に、夕方だったって話じゃなか、人の顔なんか見えたはずがねえ!あんたがどんな姿をしてたかじゃない、大きな音がして、黒い影が見えたからオバケと勘違いしたんだ。ましてや、エドワード王子はまだ九つだ、オバケを怖がってもなんらおかしなことでねえ。どうか、許してやってくれねえか!」 『…………』  相変わらず、誰かが出てくる様子はない。しかし誰かが声を聴いている、というのは気配でわかった。  自分の声は、間違いなく魔女に届いている。証拠に。 『……確かに、あたしが狙ったのは、小さな子供の王子様の方さ』  しゃがれた老婆の声が、森の奥から聞こえてきた。 『そして、その弟王子を狙った魔法を、兄王子が庇って受けた、それはわかってるとも。でもね、あたしは、兄王子のことだって最初は卵にしちまうつもりだったのさ。だって、そいつも何も言わなかったけど、驚いていたのは事実だったからねえ』 「あんたの姿を見て、バケモノみたいに思ったって言いてえのか?」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加