<4・あいのうた。>

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「おめえは、当初狙ったはずのエドワード王子を見逃した。それは、二人とも卵になっちまったら、その場から家に帰ることもできなくなっちまうからだ。そして、卵の状態なら割られただけで死んじまうんだろ?そのまま放置したら兄弟はどっちも死んでしまうかもしれねえ、あんたはそれを避けた。……あんたもけして愛がない人間じゃねえ、人を想いやる、優しい心を持った人間だ、違うか?」 『……!』  森の奥、魔女が息をのんだ気配が伝わってきた。 「こんな不便な森の奥、一人で暮らすのは寂しかったはずだ。きっとつれえ思いをしてきたんだろう、おめえさんも。……でも、今の王様たちや王子様たちは、みんなええ人だ。人を見かけや教養で馬鹿にしねえ、本当の王様たちだと俺は思う。……どうか、出てきて話をしてくねえか?」  気配が、動いた。  森の奥、ゆっくりと真っ黒な影が歩いてくる。なるほど、とソフィアは理解した。真っ黒なローブ、2メートルをかるがる超える身長。ソフィア以上に背は大きいが、顔は老婆だ。なるほど、その姿がコンプレックスだったらしい。 「……醜いだろう?あたしは」  魔女は低い声で唸った。 「一緒に暮らしてた姉さんだけが、あたしの理解者だったさ。でももう、姉さんもいなくなっちまった。あたしにはもう、家族も友達もいない。醜いこの顔を馬鹿にした奴らに復讐する以外何も残っちゃいないんだ」 「そんなことねえべ。だって、おめえさんは心の底では愛を求めとる。誰かに愛されたいから、愛がある人がこの森に来ることを望んでた、違うか?……なあに、うちの村に来たらええが。うちの村には、俺みたいにでけえ男や女もいる、おめえさんのでかさが目立つこともねえし、みんな馬鹿にしたりもしねえ!」 「……優しい娘だね、あんたは。あたしを怖がらないどころか、受け入れてくれるってのかい」  段々と、魔女の声が湿ってくる。おい、と彼女が指さしたのは、ソフィアがバッグにいれた卵の王子様だ。  貸しな、というのでバッグごと彼女に渡すことにする。彼女はトートバッグから卵を取り出すと、何かをぶつぶつ唱えながら卵を撫でた。  すると、大きな卵が一瞬虹色に輝いて、殻が鮮やかなエメラルドグリーンに変わったではないか。目を丸くするソフィアの前で、魔女は卵に語り掛ける。 「お前さんにかけた呪いの一つ目は解いた。少し軽くなったろう?」 「ええ、ありがとうございます、魔女さん。……それから、先日の森での一件。弟の分までお詫びします。失礼なことをして申し訳ありませんでした。両親にも言って、貴女様の罪は問わないように計らいますので」 「……ったく、少しは恨み言くらい言ったらどうなんかね、王子様」  エリックの丁寧な謝罪に、魔女は苦笑いをした。そして、ソフィアに向き合って教えてくれる。
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