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「もう一つの呪いは、王子様自らが解かなければならない。確かに、この王子様は優しい性格なんだろう。家族への愛もあるんだろう。しかし、それを越える愛を示さなければこの呪いは解けない。あたしにも解くことはできない。これは、そういう力だからね」
「俺の、孵化させる力だけでも駄目だべか?」
「その力は補助にはなるだろうが、一番大事なのは王子様の心だろうさ。なあ王子様、あんた、この場で愛を証明できるかい?」
後から思うと。魔女は、既にいろいろなことを察していたのかもしれない。彼女と対面してから、エリックはほとんどしゃべらなかったというのに、だ。
「でしたら……ソフィア」
「ん?」
なんとかスキルをかけようと、ソフィアは魔女が持つ卵に手を翳した。そんなソフィアに、エリック王子はなんと。
「貴女を愛しています。私と結婚していただけませんか」
え、と固まった。ソフィアが、己の顔が熱くなったのを自覚した瞬間――エメラルドグリーンの卵がまばゆい光を放ち始める。
ぴしぴしぴしぴしぴし、と卵の殻に罅が入っていく。驚くソフィアの目の前でそれらは砕け散り――眩しさにぎゅっと目を閉じた次の瞬間、翳していたソフィアの右手を何か温かいものが掴んだのだった。
そんなバカな、と思う。思ってしまう。
掴むそれが優しくて力強い人の手であり――目の前には卵の代わりに、美しい銀髪にエメラルドの瞳の青年が立っていたのだから。
「ま、まさか……エリック、王子?」
「はい」
エリックは膝づくと、そのままソフィアの手の甲にキスを落とした。そして。
「先ほどの言葉は、嘘ではありません。だから呪いが解けたのです。どうか……私の妻となってはいただけませんか」
「そ、そんな、お、俺で、ほんとうに、ええのか?俺、美人じゃねえし、田舎もんだし、その、えっと……」
「そのようなこと、何も関係がないのです。私が好きになったのは……命を重んじるその心。そして、魔女さんへの優しい言葉と気遣い、心の美しさなのですから」
鼻をすする音が聞こえたと思えば、すぐ後ろでソフィアのバッグを持ったままの魔女が鼻を鳴らしている。
夢みたいな話だった。こんなに美しい王子様が、自分のような田舎娘を愛してくれようなんて。いや、彼は見た目が美しいだけじゃなくて――なら。
「お、俺の、村のみんなを……一緒に、助けてくれるなら」
ソフィアの言葉に、王子は笑って頷いたのだった。
それから後。小さな村は、王家の直轄領となり、ソフィアと王子は村と城を行き来しながらたくさんの家族と幸せに暮らしたという。
魔女もまた、卵を作り出す力を使って人々の食糧問題を解決したり、愛を説く伝道師として村人たちに愛されるようになったのだとか。
めでたし、めでたし。
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