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この世界には、特殊なスキルを持つ人間が時々生まれる。
物体を触らずに浮かせることができる者。炎を自在に操る者。水を凍らせることができる者や、瞬間移動ができる者。そういうスキルの持ち主たちはよく王様にスカウトされ、召し抱えられることが殆どだった。特に、戦闘で役立つスキルを持つ者は国防に非常に役立つ。この国は昔から隣国とあまり仲が良くないから尚更に。
しかし、スキルを持っていても、正直“何の役に立つかもわからない能力”であるケースも少なくないのだ。ソフィアがまさにいい例だった。何故ならソフィアの能力は。
「――、――――!」
どんな卵でも孵すことができる能力――ただそれだけなのだから。
しかし、この村ではそれなりに役に立っている。
近年鳥獣の間で流行している、“生まれた卵が孵らなくなる病”。ウイルスなのか、突然変異なのか、なんにせよ酪農家にとって洒落にならないこの病を克服できる、唯一無二の力と言っても過言でないのだから。
やり方は簡単。あぐらをかいた膝の上に卵を乗せて、鼻歌を歌いながら撫でる。それだけ。
自分でもどういう理屈かわかっていない。だが。
「お」
パキ、パキパキパキパキ!
ソフィアが歌い始めてほどなくして、卵の殻に罅が入り始める。撫でていた“孵らずの卵”が四つとも同時に、だ。
胡散臭いスキルだったが、効果は絶大なのだった。ソフィアがスキルを使えば、基本どんな卵も必ずヒヨコにすることができる。おおおおおおおおおお!とおばさんが歓声を上げた。
「おおおお、さすが、ありがてえ、ありがてえよおソフィー!」
殻を破って、黄色いヒヨコたちが次々生まれてくる。そう、この鶏は生まれた時は黄色で、大きくなると緑色に羽根が染まっていくのだ。
嬉しそうに手を叩き、おばさんがソフィアに抱き着いてくる。親鳥とおぼしき二羽の鶏も、嬉しそうに緑色の羽根をバタつかせたのだった。
「コケ、コケッコーコケ!」
「コケコケコケコケコケコケッコー!!」
「あははははは、やめとくれ、くすぐったくてかなわねえ!おばさんもさあ、そんな気にせんでええからなあ。俺はただ、自分にできることをしただけだべ」
そのスキルに目覚めたのは、両親が亡くなる前のこと。
卵を孵すだけの力。王様の役に立てるようなものではないが、この村のみんなの力にはなれる。両親は、そんなソフィアを心から褒めたたえてくれたのだった。
『おめえは、優しい子だ。だから、神さんもおめえが人を傷つけることがなくていいよう、優しいスキルを与えてくれたんだっぺなあ。おれも父ちゃんも、本当に、本当に誇らしい』
『おうおう。ソフィー、おめえはおれたちの自慢の子だべ』
動物に好かれやすく、卵を孵し、毎日畑を耕し、荷運びを手伝うソフィア。
七歳で亡くなるその日まで、両親は毎日のようにソフィアを褒めて、頭を撫でてくれたのだった。
二人は病気で死んでしまったが、ソフィアは自分が不幸だと思ったことはない。
これからもこの村で、両親が教えてくれたように誰かの役に立ち、平凡な日々を過ごしていく。きっとこれからもずっとそうであると、信じて疑わなかったのである。
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