<1・たまごひめ。>

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 ***  契機となったその日。ソフィアは、畑を襲った熊と戦っていた。 「どおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」  ソフィアが振り回した鍬が、クマのこめかみを殴打する。可哀想だが、手加減することはできない。自分の後ろには、逃げ遅れた村の子供達がいるのだから。  山が近いせいか、時々クマが誤って人里に降りてきて、畑を荒らしてしまうことがある。今回もそう。秋の実りを手に入れようと、ダンマさんの畑にクマが侵入したと聞いて飛んできたのだ。  若者が少ない村である。ダンマさんの御宅も、両親は遠くの町に働きに出ており、畑にいたのは鬼ごっこをしていたダンマさん夫婦の孫たちばかりだった。まだ六歳七歳の子供達がクマに襲われてはひとたまりもないだろう。ならば、ソフィアに迷う理由などない。 「どっせいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」  怯んだ熊の顎を、さらに鍬で突き上げた。灰色の熊は、顎にクリーンヒットを喰らってもんどりをうって倒れる。力自慢のソフィアの一撃、しかも堅い鍬での攻撃だ。いくら頑丈な熊でも相応のダメージを喰らったことだろう。  手加減をしてはいけない、というのは単に後ろの子供達を守るためだけではない。一度痛い目を見せないと、クマたちが学習しないと知っているからだ。  人里に降りてくると、怖い奴に襲われて怪我をする。  彼等がそう学んでくれれば、群れの他のクマにも情報を伝えてくれる。巡り巡って、彼等を射殺しないで済むようになるのだ。 「オオン、オオオオオオオオオオオン……!」  熊は痛そうに顎を抑えて転がると、悔し気に吠えて逃げ去っていった。ふう、とソフィアはため息をつく。降りてきたのが成熊のオス一頭だけで本当に良かった。さすがに複数襲ってきていたら、自分一人では子供達を守れなかったところである。 「う、うええええええええええええええええん、うえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!」  今になって恐怖心が襲ってきたのだろう、女の子の一人が泣きだした。連鎖するように他の男の子や女の子も泣きだしてしまう。
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