<2・かんちがい。>

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<2・かんちがい。>

「ソフィアという娘を出せ!お前がソフィアか!?」 「ち、違います、違うう……!」  なんてこった。  村長の家を覗いたソフィアは目玉をひんむいた。村長の娘・ヘレンが国王からの使者らしき男に腕を引っ張られて涙目になっている。  何でヘレンが間違われているのだろう、とソフィアは首を傾げた。本人は違うって何度も言ってるのに。 「お前じゃなかったら誰なんだ!」  その理由は、使者の言葉ですぐにわかった。 「噂によれば、この村のソフィアなる娘は村一番の美人で、可憐で、上品で、お淑やかで、女性らしくて心優しく大人しい女性だというではないか!それっぽいのはお前しかおらんぞ」  窓の前で話を聞いていたソフィアとおばさんは一緒にずっこけることになった。  誰だ、そんな根も葉もなさすぎる噂を流したやつは! ――ううううううううわあああああああああああああ……で、出て生きづら……。  ドン引きしていたソフィアだったが、ヘレンが強引に連れていかれようとしているのを見て引いている場合じゃないと気づいた。  確かにヘレンは美人だ。小柄で、華奢で、大人しくてお淑やか、貴族の娘と言われても通りそうなほど気品がある。母親が都会の人だったからか、言葉もあまり訛っていないし、村一番の美少女というのは間違っていないだろう。だが。 ――だからって、人の話も聞かずに連れてくのはおかしいやろが! 「待てえええええええええええええええええええええええい!」  ドッカン!バキバキバキ、バッコン!  村長の家に飛び込んだ途端、うっかり怪力でドアを破壊してしまい、村長一家が“うわああああああ死ぬなうちのドアああああああああああああ!”と絶叫していたがとりあえずスルーである(いやほんとごめんなさい)。今は、ヘレンが連れていかれないようにするのが最重要項目だ。 「王様になんぼ事情があったとしてもな、嫌がってる娘っ子を強引に連れてくのはおかしなことだべ!本人は否定しとるだろがよ!」 「な、なんだお前は!?誰!?」 「ソフィアは俺だ、何か用があるなら俺に言ったらええ!用件とやら、聞いてやるべよ!」  ずんずんずんずん。  ソフィアは使者の男に迫った。  平均的成人男性くらいのサイズの使者より、ソフィアは頭一分くらい大きい。ぽかーんと口を開けて固まった使者は、何度もソフィアとヘレンを見比べた。 「え、え?ソフィア、こっち?え?」 「おうよ。ていうか、呼び捨てにすんじゃなか。俺とおめえは初対面やろがい」 「お、俺?ていうか訛りすご……でか……筋肉やば……え?これが噂のたまご姫?」 「おおおおおおおう?俺になんか文句でもあっか?王様の使者つっても、俺らも仕事の邪魔されてオコだかんな?俺の見た目と喋り方にケチつけてえならさっさとお城さ帰んな!」  洗練された都会では、女性の一人称は“私”であることが多いのは知っている(わたくし、あたくし、あたしもあるだろうが)。が、この村では男も女も“俺”か“おら”が普通だ。何も男らしく振る舞っているつもりもない。大好きな御国言葉にケチつけたいなら文字通り“よろしい、ならば戦争だ”なのである。 「……く、くそ、噂と全然違うじゃないか。美人じゃないとまでは言わないが」  そして使者はぶつぶつと言うと、やむをえない、というようにため息をついた。そして。 「ソフィア。お前に国王陛下から招集がかかっている。否……これは依頼というべきか」 「依頼?」 「是が非でも頼みたいことがあるのだ。こちらの無礼を詫びよう。どうか、陛下と謁見しては貰えぬだろうか」
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